≪接着・原賀塾≫

講師:(株)原賀接着技術コンサルタント

首席コンサルタント、工学博士

原賀康介

 

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「接着・原賀塾」の開講に当たって

 私は、大手電気機器メーカーで入社時から定年退職するまで、一貫して部品や機器の組み立てに接着を活用するための研究開発に従事してきました。この間に係わった製品は、宇宙・航空、車輌・自動車・船舶・昇降機、産業用機器、通信機器、電子・光学デバイス・機器、家電品など多岐に渡りました。接着するものの材質、大きさ、構造、要求される機能や特性、使用環境、耐用年数、生産方式もさまざまでした。いずれの製品開発でも、機能・特性的に<信頼性・品質>に優れていることは当然のことで、合わせて<生産性・コスト>の面でも優れていることを両立させなければなりません。そのためには、材料面だけでなく、力学面、構造面、プロセス面、設備面、信頼性など多くの面からの検討を行う必要があり、とても一人でできるものではありません。社内の多くの部署や社外の技術者の方々のご支援と協力のもとに成し遂げてきました。そのような多くの製品開発の中で遭遇したさまざまな現象や得られた多くの知識や経験から、その底にある本質を見つけ出して一つの共通技術としてプラットフォーム化し、複数のプラットフォームを有機的に組み合わせることで「高信頼性・高品質接着」という一つの考え方を作ってきました。 詳細はこちら

 この「接着・原賀塾」では、この「高信頼性・高品質接着」について述べていきたいと思います。「高信頼性・高品質接着」については、これまでに6冊の単行本を刊行して述べてきましたが、この塾では、書籍に書ききれなかったことや筆者の考えなども含めて自由に書いていきたいと思います。

 個々の技術や最新の技術については、私より学術的にお詳しい方々がおられますので、そちらにおまかせしたいと思っています。私は、あくまでも「信頼性・品質に優れた接着の達成」に向かって、「何を考え何をすべきか」が自然に身につくように必要な事柄について説明していきます。

 

1.接着の品質確保は世界的に要求されている

精密部品から構造部品まで広範囲の部品・機器での接着接合の適用拡大に伴い、接着に要求される機能・特性は高度化し、信頼性や品質への要求も厳しくなっています。しかし、接着は完成後に性能検査が困難で「特殊工程」に分類される技術であることと、各種の技術の境界領域の技術であるため、接着接合に詳しい技術者は少なく、接着接合に関する品質不具合は増加しています。

このような状況下において、今、接着接合の信頼性・品質の向上が世界的レベルで要求されています。

DIN6701(鉄道車両およびその部品製造での接着剤接合の利用)では、接着剤接合技術の品質保証に対する包括的な規制が示されています。その中のDIN6701-2には、接着剤を使用する企業の適格性 (ユーザーカンパニー:鉄道車両の製造または修理に接着剤を使用する企業)、コンプライアンス評価が示されており、鉄道車両製造部門での接着剤接合の利用がより安全で信頼できるようにEWF(European Federation for Welding, Joining and Cutting:欧州溶接、接合および切削連盟)規定に定められたEAE(European Adhesive Engineer)、EAS(European Adhesive Specialist)、EAB(European Adhesive Bonder)の資格取得が義務づけられています。

   EAE: 生産や修理のための接着接合プロセスを開発/実施する人(接着のコーディネータ)

   EAS: 作業指示を作成準備し、作業員のパフォーマンスを指導し監督する人(接着専門技術者)

   EAB: 作業指示を理解し実現する人(接着作業者)

   日本にはこれらに相当する接着の品質確保に関する資格制度はなく、鉄道関係の車輌や機器などをドイツ等に販売する企業では上記の資格取得者の配置が必要です。

鉄道車両産業以外のすべての事業分野については、20162月にDIN 2304Quality assurance in adhesive bonding technology:接着接合技術・接着接合プロセスでの品質要求条件)が制定されており、DIN6701と同等の基準が示されています。しかし、この規格はあまりにも対象事業分野が広いため、どこまで強制力があるのかは良くわからない状況です。

上記はドイツの規格ですが、20224月にはISO9001の接着版とも言えるISO21368AdhesivesGuidelines for the fabrication of adhesively bonded structures and reporting procedures suitable for the risk evaluation of such structures:接着剤—接着構造物の組立および組立物のリスク評価に適した報告手順の指針)が改訂発行されています。この規格はガイドラインなので強制力はなく、資格要件は規定されていませんが、EAEEASEABに相当する能力、技術、技能レベルを保有することが要求されています。

 

  完成後に検査で不良品を排除できないという「特殊工程の技術」の一つである接着という接合技術が、高度な性能や信頼性が要求される機器にまで使用されるようになっており、接着部に不具合が生じると大きな事故にも繋がりかねないので、接着の品質確保と高品質の維持の要求が世界的に高まっていることは間違いの無いことです。

 今から準備をしておきましょう。

2.接着は<特殊工程>の技術

 「接着」は、<特殊工程>に区分されている技術です。<特殊工程>は、「その作業結果が、後工程で実施される検査および試験によって,要求された品質基準を満たしているかどうかを十分に検証することができない工程」と定義されています。要するに、最終工程の検査では、性能・品質の良否を検査できないため、不良品を排除できない技術、工程、作業ということです。

 接着作業が終了した完成品では確認できない事項としては次のようなことがあります。

  【完成品では確認できない事項】

   ◆接着強度

   ◆接着面が適切に処理されて、規定の接着性を有する状態になっているか

   ◆プライマーの塗布量

   ◆接着面の処理やプライマー塗布後の放置時間や放置環境とその影響

   ◆接着剤が適切に計量・混合・脱泡されたか

   ◆接着剤の混合開始から貼り合せ・加圧終了までに要した時間とその影響

   ◆接着剤が適切に硬化しているか

   ◆加圧が適性になされたか

   ◆部品にスプリングバック力が発生していないか

   ◆作業時の温度・湿度が適切であったか

 接着の性能に影響を及ぼすが、どの程度の影響が及んでいるかを完成後に評価できない影響因子は、上記以外にも多くあります。「接着」が<特殊工程>の技術、作業であることは納得いただけるでしょう。

 

 では、<特殊工程>の作業で品質を確保するためには、どうすれば良いのでしょうか。それは、作業工程ごとに、作業の最適値と許容範囲を明確に規定して、規定された許容範囲の条件内で作業を行うことに尽きます。作業者が、この程度は大丈夫だろうと、規定された許容範囲外の作業を行ってしまえば、後工程で不適切さを見つけることは困難になり、品質の悪いものができてしまうことになります。また、作業工程ごとに、規定された許容範囲内の作業がなされたということを担保していくしかありません。そのためには、工程ごとの作業記録が重要になります。最終の検査工程では、作業ごとの記録をチェックして、全ての作業が許容条件の範囲内で行われたかどうかを確認します。

 

 

 次回は、接着で高品質を確保するための進め方などについて述べたいと思います。

※内容が変更となる場合もありますので、ご了承下さい。

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株式会社 原賀接着技術コンサルタント