[New] 『Cv 接着設計法』(追補版)
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原賀康介著「ユーザー目線で役立つ接着の材料選定と構造・プロセス設計」日刊工業新聞社刊(2022年2月28日発刊)2300円(税別)
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[New] 『Cv 接着設計法』(改訂法)
作成:2020/3/19 Ver.3.0 Rev.1.1
原賀式『Cv接着設計法』は、許容不良率、ばらつき、劣化、内部破壊、温度による強度低下などを考慮して、高品質な接着を簡易に達成するための設計法です。
今回、温度係数を追加し、さらにわかりやすくした<改訂法>を開発しましたので掲載いたします。
●原賀式「Cv接着設計法」、「設計基準強度と設計許容強度の算出法」は、日本海事協会(ClassNK)の「構造用接着剤使用のためのガイドライン(2015/12発行)」の設計許容強度の計算基準として採用されています。
1.簡易に設計するための設計基準
1.1 設計基準の必要性
製品の組立てに接着を使いたいと思って設計基準なるものを探してみても見つからない、接着剤メーカーに問合せても使用できるかどうかの明確な回答は得られない、結局は接着の採用をあきらめざるを得ないという経験をされた方は多いと思います。この点から、「接着」は、ボルト・ナットや溶接のように「工業的に汎用的な接合方法」とはなり得ていないと言わざるを得ません。では、各種の構造体で接着が高度に利用され、実績も得られているものはどうやって達成されているのかというと、適用までには多大な研究開発や検証試験がなされてようやっと採用されているのです。これには、十分な開発期間と開発リソースが必要なため、接着の採用によって大きな効果が得られる場合にしか採用は困難とも言えます。
筆者は信頼性に優れた接着を汎用的に使用できることを目的として長年種々の研究開発を行ってきました。その中で、これまでに、
(1)接着部の破壊状態は、凝集破壊率が40%以上であること、
(2)初期の接着強度の変動係数は、0.10以下であること、
の2点を満たすことが高信頼性・高品質接着の基本であることを示してきました。しかし、これだけでは「簡易に設計を行う」には不十分です。第3の条件として、「設計基準に従って強度設計を行うこと。」という項目を追加する必要があります。
そこで、以下では、簡易に接着強度設計を行うための設計基準の考え方と求め方について説明します。
1.2 設計基準強度、設計許容強度の考え方
接着強度は、破断試験で求められることが一般的ですが、破断強度を接着強度の実力値と考えるのは危険なことです。そこで、通常用いられている破断強度や平均値、劣化前の初期値などではなく、次に示すような接着強度の低下に及ぼす各種因子の影響を考慮して、接着強度の実力値を求めて、その強度を設計基準強度とします。
接着強度の低下に影響する因子として、
(1)接着強度のばらつき、
(2)劣化による接着強度の低下と強度ばらつきの増大、
(3)内部破壊の発生、
(4)接着強度の温度依存性を考えます。
設計許容強度は、接着強度の実力値である設計基準強度を安全率で除した強度となります。
ここでは、1.1に示した信頼性に優れた接着を行うための基本条件の(1)(2)を満たすところまで作り込みがなされた接着系であることを前提とするので、破壊状態は凝集破壊の場合について考えます。
1.3 接着強度の低下に影響する因子
1.3.1 接着強度のばらつき
(1)ばらつき係数d
ここでは、平均接着強度ではなく、接着強度のばらつきを考慮して、図1に示すように、製品の設計段階であらかじめ設定されている許容不良率F(x)1,2)の上限強度pを考えます。許容不良率F(x)は、設計段階で決められますが、製品によって1/10万~1/1000万程度に設定される場合が多いようです1,2)。
接着強度の分布は、被着材料の変形や伸びが小さく、凝集破壊する場合には正規分布になることが分かっている1-3)ので、ここでは接着強度の分布を正規分布として扱います。
図1に示すように、平均接着強度μと許容不良率F(x)が同じであっても、ばらつき(変動係数Cv)が異なると許容不良率の上限強度pは異なります。以後、平均強度μに対する許容不良率の上限強度pの比率(p/μ)をばらつき係数dと示します。ばらつき係数dがどのくらいあればよいかは設計段階で決めれば良いのですが、筆者の考えでは、悪くても0.5、好ましくは0.7程度はほしいと思っています。
ばらつき係数d、変動係数Cv、許容不良率F(x)の関係をグラフ化すると、図2のようになります。この図から、接着強度の変動係数Cvと設定されている許容不良率F(x)からばらつき係数dを容易に求めることができます。
しかし、許容不良率F(x)の直線の傾きは、正規分布の確率密度関数から計算する必要があるため、任意の許容不良率におけるばらつき係数を求めるのは容易ではありません。
(2)工程能力指数CpLと信頼性指数R
そこで、許容不良率と類似の意味を持つ工程能力指数Cpを用います。
工程能力指数Cpは、図3に示すように、一般に、平均値μに対して、上側規格値USLと下側規格値LSLが規定されていて、USL以上、LSL以下のものは不合格とされ、最終の検査によって排除されます。
工程能力指数Cpは、Cp = (USL - LSL) / 6σ(σは標準偏差)と定義されますが、強度のように上側規格値が不要な場合は、下側規格値のみが規定され、CpLと表記され、CpL=(μ-LSL)/3σと定義されます。CpやCpLは、1.00、1.33、1.50、1.67などに設定される場合が一般的で、値が大きいほど不良率が低いということになります。1.00というのは、いわゆる3σ管理ということです。
しかし、接着強度は非破壊では検査できないため、下側規格値LSLを決めても、LSL以下の強度のものを排除できず、市場に流れ出ることとなります。この点から、接着強度においては、下側規格値LSLは、検査の規格値としての意味はなく、許容不良率以上の不良品を市場に流出させないための規格値、即ち、許容不良率F(x)の上限強度pと考えるのが妥当です。
そこで、接着強度に関しては、図4に示すように、LSL を許容不良率の上限強度pと置き換えて考えます。工程能力指数という言葉では工程管理の手法と誤解されやすいので、以下、工程能力指数の考え方を借りて、信頼性指数R を次のように定義します。
信頼性指数R = (μ-p) / 3σ ・・・(1)
信頼性指数R=1.00、1.33、1.50、1.67は、許容不良率F(x)で表すと、それぞれ1.35/1000、3.17/10万、3.40/100万、2.87/1000万に相当します。
変動係数Cv=σ/μ、p/μはばらつき係数d なので、(1)式から、(2)式が得られます。
ばらつき係数d = p/μ = 1 - 3R・Cv ・・・(2)
また、(2)式から、変動係数Cvは、
変動係数Cv = (1-d)/3R ・・・(3)
となります。
(2)式をグラフ化すると、直線の傾きが-3Rの図5となります。図5では、許容不良率F(x)と信頼性指数Rの関係もよくわかります。
1.3.2 劣化による接着強度の低下と強度ばらつきの増大
接着強度を劣化前の初期強度ではなく、劣化後の強度で考えます。
接着部の劣化によって図6に示すように、(1)接着強度の低下と、(2)接着強度のばらつきの増大が起こります1-5)。
ここで、劣化後の平均強度をμy(yは劣化後を意味します)、初期の平均強度をμR0(Rは室温、0は初期を意味します)として、μy /μRoを強度保持率ηyとします。劣化後の強度保持率ηyは、高信頼性接着においては、悪くても0.5程度を確保していることは必要でしょう。劣化による強度低下が大きすぎると、予測不可能な現象による破壊などが懸念されるためです。
劣化後のばらつきの増大は接着強度の変動係数CvR0が増加するとして扱います1-5)。ここでは、劣化後の変動係数Cvyは、初期の変動係数CvR0のk倍に増大するとします。kは、筆者の経験値ですが、初期に凝集破壊している場合は、接着製品の耐用年数や使用環境や応力の厳しさによって1.0~1.5倍と考えれば良いでしょう1-5)。
1.3.3 内部破壊
(1)内部破壊
図7に示すように、一般に、破断荷重や最大荷重値が接着強度として扱われています。しかし、最終的に破断する以前に、接着部の内部では図に示すように破壊が繰返し起こっています。このように、破断の前に低い荷重域から生じる破壊を「内部破壊」と呼んでいます。内部破壊は目で見えにくいため気が付くことは少ないと思いますが、破断の少し前にビシッビシッと音がして、そろそろ壊れるなと感じることは経験されているのではないでしょうか。
ここでは、真の接着強度を内部破壊が最初に生じる強度、即ち、「内部破壊発生開始強度」と考えます。
(2)内部破壊係数
破断荷重に対する内部破壊発生開始荷重の比を内部破壊係数hとし、次の三つの場合について考えます。
①静的荷重負荷のみが加わる場合。内部破壊係数をh1とします。
②繰返し疲労などの高サイクル疲労が加わる場合。係数をh2とします。
③ヒートサイクルやヒートショックなどの熱応力による低サイクル疲労が加わる場合。係数をh3とします。
(3)静荷重負荷のみが加わる場合の内部破壊係数h1
静的荷重負荷の場合の内部破壊をAE(Acoustic Emission)を用いて測定した結果の一例を表1に示しました1,3,4)。この結果から、凝集破壊の場合は、破断荷重の51%以上の荷重負荷でAEが発生しています。そこで、静荷重負荷の場合の内部破壊係数h1は0.5とします。
(4)高サイクル疲労の場合の内部破壊係数h2
高サイクル疲労の場合の内部破壊係数は繰返し疲労試験の結果から求めます。疲労試験の結果の一例を図8に示しました1,3)。繰返し疲労における破壊は、内部破壊の蓄積によるものと考え、静的破断荷重に対する107回の高サイクル疲労における最大負荷荷重の比を内部破壊係数h2とします。凝集破壊の場合は、一般に、h2は静的破断荷重の1/3~1/4程度なので、h2=0.25とします。
(5)熱応力の繰り返しによる低サイクル疲労の場合の内部破壊係数h3
ヒートサイクルやヒートショックでは、外力の繰り返しの場合より周期が長いため、静的破断荷重に対する104回における最大負荷荷重の比を内部破壊係数h3とし、h3=0.4~0.5とします。
1.3.4 接着強度の温度依存性
ここでは、室温での接着強度ではなく、製品の使用温度範囲において接着強度が最も低下する温度下での接着強度で考えます。図9に示すように、樹脂系の接着剤の場合は、温度によって接着強度が変化します。一般に、高温やかなりの低温領域では室温付近の強度に比べて接着強度が低下します。
接着部の使用温度範囲において、接着強度が最も低下する温度下における接着強度をμT(Tは温度を意味します)とし、室温での接着強度μR0に対するμTの比率(μT/μR0)を温度係数ηTとします。
μR0、μTは、接着剤のカタログや接着剤メーカーへの問合せで容易にわかるので、温度依存係数ηTは容易に求めることができます
1.4 設計基準強度と設計許容強度の算出式
1.4.1 設計基準強度
これまでに述べてきたように、設計基準強度、即ち、接着強度の実力強度は、図10に示すように、初期の室温における平均破断強度μR0に対して、設定された想定不良率における初期のばらつき係数dR0(=pR0/μR0)、劣化後の強度保持率ηy、劣化による変動係数の増加率k、内部破壊係数h、使用温度による強度低下率(温度係数)ηT、などを考慮したpyThとなります。
1.4.2 設計基準強度の算出式
まず、劣化後の許容不良率の上限強度pyを求めます。
dy=py/μy、μy =μR0・ηy、なので、dy=py/(μR0・ηy)、
(2)式より、dy =1- 3R・Cvy、Cvy=k・CvR0 なので、dy=py/(μR0・ηy)=1 - 3R・k・CvR0 となり、 (4)式が得られます。
py=μR0・ηy (1 - 3R・k・CvR0)・・・・(4)
次に、内部破壊と使用温度による強度低下を考慮します。すると、図10のpyThは、(5)式となり、接着強度の実力値である設計基準強度pyTh が得られます。
pyTh =μR0・ηy (1 - 3R・k・CvR0 )・ηT・h ・・・(5)
1.4.3 設計許容強度
設計基準強度で設計することは適当ではないため、さらに安全率Sを考慮して設計許容強度を求めます。
設計許容強度pyThSは、(6)式となります。
pyThS = μR0・ηy (1 - 3R・k・CvR0 )・ηT・h / S ・・(6)
(6)式で、設計許容強度を試算してみましょう。
初期の平均破断強度μR0が20MPaで、初期の変動係数CvR0が0.10まで作り込まれていて、要求される信頼性指数R(工程能力指数と考えても良い)が1.50(許容不良率F(x)で表すと3.40/100万)、劣化後の強度保持率ηyが0.7、劣化による変動係数の増加率kが1.2、温度係数ηTが0.7、内部破壊係数hが0.5、安全率Sを1.5と仮定すると、(6)式から、設計許容強度pyThSは1.5MPaとなります。即ち、上記の場合、設計許容強度は、室温の平均破断強度の約1/13となります。かなり低いなと思われるかもしれませんが、これが実際のところです。
1.5 Cv接着設計法
製品設計の初期の段階で、接着を使うか他の接合方法を使うかの選択に迷うことは多いと思います。接着に対する不安の一つに、どのくらいの接着面積をとればよいのかがわからないということがあります。評価試験などを行わないで、必要な接着面積を簡易に見積もれれば助かります。また、接着強度のばらつきをどの程度に抑えなければならないかも知りたいところです。
これらを、評価試験を行わずに、必要な接着面積と作り込みの変動係数を簡易に見積もる方法が「Cv接着設計法」です。
製品の耐用年数経過後に、想定不良率以上の不良を出さないためには、図10に示すように、接着部に加わる最大の力Pmaxに対して、設計許容強度pyThSは、同じかそれ以上であることが必要です。
pyThS ≧ Pmax
接着部に加わる最大の力Pmaxに対する、必要な接着部の初期の平均破断強度μR0の倍率は、(6)式の逆数μR0/pyThS以上必要であり、(7)式で求めることができます。
μR0/Pmax ≧ μR0 /pyThS= S/{ηy (1 - 3R・k・Cv R0 )・ηT・h }・・(7)
しかし、初期の変動係数CvR0は、わかっていないことが多いため困ります。(3)式より、Cv R0 = (1-dR0) /3R なので、(7)式に代入すると、(8)式が得られます。
μR0/Pmax ≧ μR0 /pyThS = S/〔 ηy {1 - k・(1-dR0)}・ηT・h 〕・・(8)
初期の平均破断強度がτ(タウ)MPaの接着剤と仮定すると、必要な接着面積は、μR0/τで求めることができます。
例えば、接着部に加わる最大力Pmaxが200N、初期のばらつき係数dR0の要求値が0.60以上で、劣化後の強度保持率ηyを0.7、劣化による変動係数の増加率kを1.2、温度係数ηTを0.7、内部破壊係数hを0.5、安全率Sを1.5と仮定した場合、(8)式から、μR0は2355N以上必要となります。初期の平均破断強度μR0が20MPaの接着剤を用いると仮定すると、必要な接着面積は、μR0/τから118mm2以上(例えば、10mm×11.8mm)有れば良いことがわかります。この程度の面積が可能であるとなれば、次に、実際に接着作業を行うときに、初期の変動係数をどの程度まで作り込まなければならないかを知る必要があります。ただし、作り込みの程度は、要求される信頼度(信頼性指数R)によって変化するので、Rを仮定しなければなりません。例えば、Rを1.50と仮定すると、(3)式より、Cv R0 = (1 - dR0 ) / 3Rなので、Cv R0 は0.067以下で生産する必要があることがわかります。
ここで、初期の変動係数Cv R0 が0.067以下になるように生産するのはちょっと厳しいな、0.10程度で作りたいなと思った場合は、(7)式を用いて、初期の変動係数Cv R0を仮定して必要な面積を求めることができます。
例えば、上の条件で、Cv R0を0.10とすると、(7)式から、μR0は2662N以上必要となり、μR0/τから133mm2以上(例えば、10mm×13.3mm)必要なことがわかります。少し面積を広げることで、楽に生産できることがわかります。
参考資料
1)原賀康介;接着の技術誌,Vol.32, No.3, P.62 (2012).
2)原賀康介;接着の技術誌,Vol.24, No.2, P.58 (2004).
3)原賀康介;日本接着学会誌,Vol.39, No.12, P.448 (2003).
4)原賀康介;日本接着学会誌,Vol.43, No.8, P.319 (2007).
5)原賀康介;日本接着学会誌,Vol.40, No.11, P.564 (2004).
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株式会社 原賀接着技術コンサルタント