≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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接着を用いるのに、なぜ他の接合法まで併用する必要があるのだろうか、とお思いの方もおられるでしょう。
<複合接着接合法>の目的は、<前回>の13.1で述べたように、接着の欠点や、併用する接合法の欠点を補完し合って、接合の特性・機能・品質・信頼性を向上させるとともに、製造工程の合理化によってコストダウンを図ることです。
以下に、接着や併用する接合法の課題がどのように改善されるのかを示します。
接着の大きな欠点の一つは作業性の悪さです。特に、硬化時間の長さは生産性の低下につながります。接着剤を塗布して貼り合わせた後、硬化するまで動かないように冶工具で固定しておかねばなりません。冶工具は、取り付けの作業だけでなく、取り外しやメンテにも手間がかかります。当然、冶工具代も必要です。そこで、冶工具で固定する代わりに、他の接合法を用いて固定すると、冶工具を廃止できます。
加熱硬化型接着剤を用いる場合は、冶工具で固定した状態で加熱しなければなりませんが、塗装時の熱を利用して硬化させる場合には、冶工具が付いていると塗装の邪魔になります。塗装の前に接着剤の加熱硬化を行うことは、生産性やエネルギー的に問題です。この点も、他の接合法を併用することで解決されます。
リベットやネジなどを併用すると、穴で位置が決まるため、位置合わせのための冶工具なしでも位置精度が確保され、作業も楽なため素人工でも作業可能となります。
接着剤が硬化した後に焼き付け塗装などで高温に曝されることがあります。軟らかい接着剤や両面粘着テープなどでは、高温に曝されると接着強度が低下して、接着部のずれや部品の変形、剥離などが生じることがあります。接着部の構造で回避しようとすると、構造が複雑になります。このような場合、スポット溶接や、ねじ、リベットなどの金属締結を併用することで、簡素な構造でこの問題を解消することができます。
金属部品の接着後に電着塗装される場合や、部品間にアースが必要な場合には、通常の接着剤は通電性がないため困ります。ジャンパー線などで導通を取るとコストアップにつながります。接着剤とスポット溶接や、ねじ、リベットなどの金属締結を併用することでこの問題を解消することができます。
接着接合の特徴の一つとして、ある程度柔軟な接着剤を用いて貼り合わせると、制振効果が得られ、振動を抑えて騒音を低減することができます。しかし、柔軟な接着剤は、使用中に高い温度になると、接着強度が低下するという問題があります。ガラス転移温度(Tg)が高い硬い接着剤を用いれば高温での接着強度の低下は防げますが、制振効果は低下してしまいます。複合接着接合法を用いることで、ある程度柔軟な接着剤のままで、高温での接着強度も高くしたいという相反する特性を満足させることができます。
図13-9は、比較的柔らかめの二液室温硬化型アクリル系接着剤(SGA)で鋼板同士を接着したもののせん断強度の温度依存性を示したものです。青い線は、接着剤だけで接合したものですが、温度の上昇につれて接着強度が大きく低下しています。接着剤と重ね合せの中央部に1点のスポット溶接を併用すると、赤い線のように、接着強度の温度による変化は小さくなります。赤い線の破壊強度は、スポット溶接部が破壊したときの強度ではなく、ラップ端部の接着部が壊れたときの強度です。120℃雰囲気中での接着強度は、複合接着接合法では約7kNで、接着のみの1.5kNに対して約4.7倍に向上しています。
(出典) 原賀康介;“ウェルボンディングの接合特性”,日本接着協会誌,Vol.22,No. 3,P.164-172(1986).
図13-9 スポット溶接併用による高温接着強度の向上(SGA)
図13-10には、二液室温硬化型ウレタン系接着剤、二液室温硬化型エポキシ系接着剤での結果を示しました。青い線は接着のみ、赤い線は接着とスポット溶接を併用したもののラップ端部の接着部の破壊強度、緑の線は、スポット溶接部の破壊強度です。いずれも、接着のみに比べて、接着とスポット溶接を併用すると、高温でのラップ端部の破壊強度が向上しています。
図13-10 スポット溶接併用による高温接着強度の向上
これらは、高温で接着剤が軟らかくなるほど、スポット溶接部の荷重分担率が高くなるためと考えられます。
ネジやボルト、リベット、スポット溶接、かしめなどの破壊強度のばらつきは、接着強度のばらつきよりかなり小さいのが一般的です。これまでにも随所で述べてきたように、接着強度のばらつきを小さくして、変動係数Cv(=標準偏差/平均値)を0.10以下にすることは信頼性・品質を確保する上で重要です。
図13-11は、リベットのみ、エポキシ系接着剤での接着のみ、接着のラップ中央部にリベットを1本併用したものの引張りせん断強度の度数分布です。リベットのみでは、強度はさほど高くありませんが、ばらつきは小さく、Cv値は0.034と非常に小さいです。一方、接着のみでは、平均強度はリベットより高いですが、Cv値は0.12と大きくなっています。接着とリベットを併用すると、Cv値は0.07と接着のみの場合より小さくなっています。
このように、併用接着接合法によって、接着の強度ばらつきを低減することができます。
図13-11 接着・リベット併用による接着強度のばらつきの低減
接着剤での接合で最も怖いことは、「破壊が生じると瞬間的に接着部全面が破壊して分断が生じる」ことです。多くの設計者が構造物組立に接着を使いたくないと考えるのは当然とも言えるでしょう。
図13-12は、接着のみ、スポット溶接のみ、接着とスポット溶接を併用したウェルドボンディングのせん断試験における荷重/伸び曲線です。
接着だけの場合は、最大荷重付近で破壊が始まると、ほぼ瞬間的に全面が破壊して分断しています。
スポット溶接では、最大荷重付近でナゲット(溶融凝固部)の両側面部で破壊が始まると一旦急激に強度が下がりますが、まだ分断はしておらず、その後は板自体が徐々に破れながら強度が低下していきます。この、「破壊は始まったが分断はしていない」というのが構造物では非常に重要な点です。部分的に破壊してもまだつながっていれば、異音や振動などから不具合を発見して修理をすることが可能です。この点から、接着だけでの構造物組立が避けられてきたことは理解できると思います。
では、接着剤とスポット溶接を併用したウェルドボンディングではどうでしょうか。図のように、二つのピークが現れています。最初のピークは、重ね合せ端部の接着部の破壊によるものです。重ね合せ端部の接着部が破壊すると強度が下がりますが、スポット溶接部とその両側面の接着部はまだ壊れていないため、これらの部分で荷重を受け止めて強度低下は一旦止まります。その後は、スポット溶接部とその両側面の接着部が荷重を支えるため荷重は増加していきます。二番目のピークは、ナゲットの両側面部での破壊の開始によるもので、その後は板自体が徐々に破れながら強度が低下していきます。
接合部の破断までに要したエネルギーは、荷重/伸び曲線の面積に相当します。図より、破壊に要したエネルギーは、接着 < スポット溶接 < ウェルドボンディング の順で、ウェルドボンディングの破壊エネルギーは、接着の約3倍に向上しています。
図13-12 接着、スポット溶接、WBの荷重/伸び曲線
図13-13は、SGAによる接着のみ、リベット(φ4.0mm)のみ、接着とリベットを併用したリベットボンディングのせん断試験における荷重/伸び曲線で、80℃の雰囲気中で測定しています。リベットは、30mm×30mmの接着部に、1本(C1)、2本(W2)、3本(W3)締結しています。図中の破線は接着のみ、一点鎖線はリベットのみ、実線はリベットボンディングです。リベットボンディングの場合は、いずれも二つの破断ピークが見られます。図中の“A”はラップ端部の接着部の破壊、“R”はラップ中央部のリベットとリベット側面の接着部の破壊によるものです。ラップ端部の接着部の破壊強度は、リベット併用により、接着のみより上昇し、リベット本数が多いほど高くなっています。接合部の破断までに要したエネルギーは、接着だけの場合に比べて大きく増加しています。
(出典) 原賀康介,西川哲也;“リベット併用による接着継手の強度上昇に及ぼす接着部の形状、温度の影響”,日本接着協会誌,Vol.,25No.8 ,P.299-305(1989).
図13-13 接着、リベット、RBの荷重/伸び曲線
これらの点から、複合接着接合法は、破壊に対する冗長性が高いということができます。
(1-7)で、接着だけの場合は、破壊が始まるとほぼ瞬間的に全面が破壊して分断してしまう、と述べました。これは、接着部に生じた亀裂が急速に進展していくためです。複合接着接合法で他の接合法を併用しておくことで、接着部に生じたクラックの進展を他の接合部で止めることができます。
有機物系の接着剤は、火災などで燃焼してしまいます。例えば、ビルの屋上に設置される構造物が接着剤だけで組み立てられている場合、ビル火災で接着剤が燃焼すると、構造物はバラバラになって二次災害にもつながりかねません。このような用途では、接着剤だけでの組立では実用化は困難ですが、スポット溶接や、ねじ、リベットなどの金属締結を併用することで、接着剤が燃焼消失しても最低限の形状維持が可能となり、実用化が可能となります。
燃焼による接着剤の消失に限らず、自然災害や事故など想定外の種々の事象による崩壊の防止と言う点でも、接着剤以外の金属接合の併用はきわめて効果的です。
「接着を用いて構造物を組み立てる場合には、他の接合方法を併用する」ことは、企業、技術者の最低限の社会的責任とも言えるでしょう。
図13-14 想定外では済まされない(併用接着接合法によるバックアップの必要性)
次回は、併用接着接合法による接着のクリープ耐久性、耐水劣化性の改善、併用する接合法の課題の改善について述べます。
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