≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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<前回>は、一般的(規格)ではないが重要な強度試験法、接着強度の基準、引張りせん断試験の結果に影響する諸因子の(1)被着材料の耐力以上のせん断接着強度は正しく測定できない などについて述べました。今回は、引張りせん断試験の結果に影響する諸因子の(2)せん断力負荷における応力集中 について述べます。
図14-13は、引張りせん断接着試験片の接着部付近の断面図です。(A)の状態のものに荷重を加えて、被着材を左右に引張るとします。
接着剤が軟らかい場合は、(B)にように、接着剤の上面も下面も被着材とともに全体が左右にずれて、接着層全体が均一に平行四辺形のように変形します。この状態では、接着部のどの部分でも同じせん断応力が加わっています。
接着剤が硬い場合は、(C)にように、被着材が左右に引張られると、ラップ端部付近の硬い接着剤が力を支えてしまうので、ラップ中央部まで力は伝わらなくなります。このような状態を<シアラグ(せん断遅れ)>と言います。
図14-13 引張りせん断試験での接着剤の変形状態
その結果、図14-14に示すように、ラップ端部付近には大きなせん断応力τが加わり、ラップ中央部ではせん断応力τは小さくなります。このように、特定の箇所で応力が高くなる現象を<応力集中>と言います。
図14-14 引張りせん断試験における応力集中
単純ラップせん断試験片における応力集中に影響する因子としては、①被着材の弾性率、②接着剤の弾性率、③被着材の厚さ、④接着層の厚さ、⑤ラップ長さ(重ね合わせ長さ)、などが有ります。
単純ラップ引張りせん断試験片におけるせん断応力の分布を求める最も基本的な<Volkersenモデル>を用いて、これらの影響を計算してみました。<Volkersenモデル>では、後で述べるラップ部の曲がりや、被着材や接着剤の塑性変形や粘弾性的性質は考慮されていないので、細かい応力値の数値にはこだわらないで下さい。
図14-15【A】は、ラップ長さ12.5mm、幅25mm、被着材の厚さ1.6mm、接着層の厚さ0.1mmの引張りせん断試験片です。接着剤の弾性率は、1.0Gpa(1000MPa)(少し柔らかめのエポキシ系接着剤程度)とし、被着材の弾性率を鋼材の200Gpa、アルミの70Gpa、ポリカーボネートの2.6Gpaの3種類とし、980N(100kgf)で引張った時のラップ部における長手方向のせん断応力の分布を示したものです。
この結果より、被着材の弾性率が低いほど、ラップ端部のせん断応力は高くなり、ラップ中央部のせん断応力は低くなっていることがわかります。鋼材(赤色の線)とアルミ(緑色の線)でも応力集中の程度は異なりますが、金属より弾性率が非常に低いプラスチック(青色の線)では、非常に大きな応力集中が生じており、ラップ長12.5mmの中央部7.5mm程度の部分(水色の領域)には、力は加わっていないことがわかります。なお、この計算は、被着材が弾性体として計算していますが、実際には、プラスチックでは応力が高くなると塑性変形が生じるため、この結果ほど端部の応力は増加しません。
図14-15 引張りせん断試験での被着材、接着剤の弾性率とせん断応力の分布(Volkersenモデル)
図14-15【B】は、ラップ長さ12.5mm、幅25mm、被着材は厚さ1.6mm、弾性率200Gpaの鋼材とし、接着剤の弾性率は、3.0Gpa(硬いエポキシ樹脂など)、1.0Gpa(少し柔らかめのエポキシ系接着剤程度)、0.1Gpa(ゴムよりは硬いが軟らかい接着剤)の3種類としています。接着層の厚さは0.1mmで、980N(100kgf)で引張った時のラップ部における長手方向のせん断応力の分布を示したものです。縦軸の目盛りは、【A】と同じで表示しています。
この結果より、接着剤の弾性率が高いほど、ラップ端部の応力は高くなることがわかります。弾性率0.1Gpaの軟らかい接着剤(赤色の線)では、ほとんど応力集中していないことがわかります。
この結果から、弾性率が高い接着剤では応力集中が生じやすいため、軟らかい接着剤より低荷重で破壊しやすい、と思われますが、実際には、図14-16に示すように、一般に、接着剤の弾性率が高いほどせん断強度は高くなります。
図14-16 接着剤の弾性率とせん断破断強度の関係
これは、図14-17に示すように、接着剤の荷重/伸び曲線を比べると、弾性率が低い、即ち、軟らかい接着剤では破断時の荷重は硬い接着剤に比べて低下するため、どんなに引張っても高い荷重値には至らないためと考えられます。なお、図14-17に示すように、同一の接着剤でも、低温では弾性率が高くなり、高温では弾性率は低下します。
ラップ端部の応力だけでは破壊強度は予測できないので注意してください。
図14-17 接着剤の弾性率、温度、接着層の厚さと荷重/伸び曲線
表14-3には、接着剤の弾性率と引張りせん断強さの目安を示しましたので参考にしてください。カタログでせん断強度の高い接着剤を選ぶと、硬すぎてはく離や衝撃に弱くなるので注意してください。
表14-3 接着剤の弾性率と引張りせん断強さの目安
図14-18【C】は、ラップ長さ12.5mm、幅25mm、被着材の弾性率は70Gpa(アルミ)、接着剤の弾性率は1.0GPa(柔らかめのエポキシ系接着剤程度)で接着層の厚さは0.1mmの引張りせん断試験片です。被着材の厚さを、1.5mm同士、3.0mm同士、10.0mm同士の3種類とし、980N(100kgf)で引張った時のラップ部における長手方向のせん断応力の分布を示したものです。
この結果より、被着材の板厚が厚いほど、ラップ端部のせん断応力は低くなり、ラップ中央部のせん断応力は高くなっていることがわかります。被着材の厚さを厚くすると、応力集中を少なくできるだけでなく、<前回>の「14.5 引張りせん断試験の結果に影響する諸因子 (1)被着材料の耐力以上のせん断接着強度は正しく測定できない」で述べた、被着材の耐力荷重を大きくできるので、せん断接着強度を正しく測定するには望ましいです。
図14-18 引張りせん断試験での被着材、接着剤層の厚さとせん断応力の分布(Volkersenモデル)
図14-18【D】は、ラップ長さ12.5mm、幅25mm、被着材は弾性率70Gpa(アルミ)で厚さ1.5mm、接着剤の弾性率は1.0GPa(柔らかめのエポキシ系接着剤程度)で接着層の厚さは0.1mm、0.5mm、1.0mmの3種類とし、980N(100kgf)で引張った時のラップ部における長手方向のせん断応力の分布を示したものです。
この結果より、接着層厚さが薄いほど、ラップ端部のせん断応力は高くなり、ラップ中央部のせん断応力は低くなっていることがわかります。
この結果から考えると、ラップ端部の応力値は、接着層厚さが薄いほど高くなっているので、低荷重で破壊しやすそうに思えますが、実際には、図14-19に一例を示すように、せん断強度は、接着層の厚さが厚くなると低下していきます。この原因については、1)体積効果(厚くなると欠陥が増加する)、2)引張速度依存性(一定速度で引張った場合、接着層が厚いとひずみ速度は低下する)、3)後に述べるラップ部の曲がりの増大による引張り力(はく離力)の増加、4)接着剤の分子鎖の動きやすさ(界面では結合していて配向状態にもなっているので、界面に近い部分の接着剤は自由に動きにくく、薄い接着層では硬い接着剤的な特性となり、厚くなると自由に動きやすくなるため、軟らかい接着剤的な特性となる。図14-17に示した荷重/伸び曲線で考えると、同じ弾性率の接着剤でも、接着層の厚さが薄いほど、硬い接着剤の特性に近くなるため。)などが考えられます。
なお、接着層の厚さが厚くなると、図14-19に見られるように、はく離強さは上昇していきます。
出典)デンカ(株)ハードロック技術資料
図14-19 接着剤層厚さとせん断接着強さ、はく離強さの関係の一例
図14-20は、アルミハニカムのせん断試験におけるハニカム厚さと最大せん断強度の関係を示したものですが、ハニカム層が厚くなるほどせん断強度は低下しています。このように、接着剤層に限らず、二枚の板に接着されてせん断力が加わると、一般に、強度は低下していきます。
図14-20 ハニカムのせん断試験におけるハニカム厚さと最大せん断強度の関係
次回も引き続き、(2-2) 応力集中に影響する諸因子 について述べます。
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