≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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今回も、<前回>に続いて、せん断力負荷における応力集中に影響する諸因子について述べます。
(2-2) 応力集中に影響する諸因子
図14-21【E1】【E2】は、幅25mm、被着材は弾性率70Gpa(アルミ)で厚さ3.0mm、接着層の厚さは0.1mmとして、ラップ長さを12.5mm、25.0mm、50.0mm、100mmと変化させた場合の、ラップ部における長手方向のせん断応力の分布を示したものです。【E1】は、接着剤の弾性率が1.0Gpa(1000MPa)(柔らかめのエポキシ系接着剤程度)の場合、【E2】は、接着剤の弾性率が0.1Gpa(100MPa)(ゴムよりは硬いが軟らかい接着剤)の場合です。なお、ラップ長さを変化させても、引張り力は980N(100kgf)で一定としています。
【E1】でも【E2】でも、ラップ長が長くなると、ラップ端部の応力値は低下していますが、これは、ラップ長にかかわらず、引張り力を一定としているためです。
図14-21 引張りせん断試験でのラップ長さとせん断応力の分布(Volkersenモデル)
まず、接着剤の弾性率が1.0Gpaの【E1】を見ると、ラップ端部付近以外のラップ中央部の応力値は、ラップ長の増加につれて小さくなり、ラップ長50mmと100mmでは応力値は0となっています。応力値が0の部分は、ラップ長が50mmの場合は、中央部の約20mm(水色で示した領域)、ラップ長100mmの場合は、中央部の約70mm(グレーで示した領域)となっており、応力が負荷されている領域は、ラップ長50mm、100mmのいずれでも、ラップ端からそれぞれ15mmとなっています。即ち、ラップ長が長くなると、応力が負荷されない中央部の長さが長くなるだけで、応力が負荷されている領域は拡がるわけではないということです。よって、ラップ長50mmと100mmの破断荷重値はほぼ同じになります。
【E2】の接着剤の弾性率が0.1Gpaの場合は、【E1】の接着剤の弾性率が1.0Gpaの場合より応力集中は少なくなりますが、ラップ長が100mmでは、ラップ中央部の約20mm(グレーで示した領域)の範囲では応力値は0となっています。
図14-22には、ラップ長100mmにおいて接着剤の弾性率を1Gpa(1000MPa)(柔らかめのエポキシ系接着剤程度)、0.10Gpa(100MPa)(ゴムよりは硬いが軟らかい接着剤)、ゴム状の0.01Gpa(10MPa)、0,001Gpa(1MPa)と変化させた場合のせん断応力の分布を示しています。この結果から、接着剤の弾性率が高い場合には、ラップ中央部では応力0の部分が生じますが、接着剤の弾性率が低くなると、ラップ長が長くても応力集中は小さくなることがわかります。なお、これらの計算は、最初にも述べたように、接着剤を弾性体として扱っていますが、実際には、接着剤が軟らかくなると、塑性変形や粘弾性的性質が強くなるため、接着剤が軟らかいほど、この計算結果より応力集中は少なくなります。
図14-22 ラップ長さ100mmにおける接着剤の弾性率とせん断応力の分布
(引張り荷重一定)(Volkersenモデル)
図14-22に示したように、接着剤が硬い場合には、力を支えているのはラップ端部付近だけとなるため、ラップ長を長くしても破断荷重値は上がらず、図14-23に示すように、破断荷重値を接着面積(ラップ長×幅)で割って公称せん断応力を求めると、ラップ長が長くなるほど公称せん断応力値は低くなります。
図14-23 弾性率が高い接着剤の引張りせん断試験でのラップ長さと強度の関係
これに対して、接着剤の弾性率が低い場合には、図14-22に示したように、ラップ長が長くても、応力集中が少なくなってラップ中央部でも力を支えているため、ラップ長が長いほどせん断破壊荷重は高くなります。
図14-24は、二液室温硬化型アクリル系接着剤(SGA)でのラップ長と破断強度の関係の実測例です。この接着剤の弾性率は0.1~1Gpa程度ですが、塑性変形しやすく応力緩和しやすいものです。そのため、ラップ部での応力集中は非常に少なく、図のように、ラップ長の増加に比例してせん断破断荷重が増加しています。図中の直線から外れている結果は、<前回>の「14.5 引張りせん断試験の結果に影響する諸因子(1)被着材料の耐力以上のせん断接着強度は正しく測定できない」で述べたように、被着材の板厚が薄い場合には、被着材の耐力が接着強度以下となり被着材が塑性変形したためです。
図14-24 弾性率が低い接着剤の引張りせん断試験でのラップ長さと破断強度の関係
以上の点から、図14-25に示すように、ラップ長Lが非常に長い場合には、硬い接着剤より軟らかい接着剤を用いる方が、高い破断荷重値が得られることになります。
図14-25 ラップ長が長い場合には、軟らかい接着剤を用いる方が高い破断荷重値が得られる
単純ラップ引張りせん断試験片に力を加えていくと、図14-26(A)に示すように、引張り力が大きくなると、ラップ部(重ね合せ部)で曲がりが生じます。これは、「(2)せん断力負荷における応力集中」で述べたように、応力集中によってラップ端部には大きな応力が加わります。応力が最も大きい部分は(A)のピンク色の部分、即ち、被着材の接着面側のラップ端部付近です。高い応力によって、局部的に被着材表面付近が伸びるため、板の曲がりを生じることとなります。引張り力が小さければ、ラップ端部の応力は小さいため、(B)に示すように、ラップ部での曲がりは生じませんません。
力の伝わり方は、<水の流れ>と同じように考えることができます。即ち、引張り力が弱い(B)の場合は、水はラップ部で曲がりながらゆっくり流れますが、水流が激しくなる(引張り力が強くなる)と、ラップ部での抵抗が大きくなるため、抵抗を減らしてまっすぐに流れようとして、(A)のように、ラップ部を曲げてしまうことになると言うことです。
ラップ部が曲がる最大の角度は、(A)のように、引張りの荷重軸が一直線となり、接着層の中心が荷重軸と一致する角度です。
ラップ部の曲がりは、<第12回>の「8.ばらつきの少ない引張せん断試験片の作製方法 8.4 引張りせん断試験時の注意点(1)支持体の取付」で述べた<支持体>を取り付けていても起こります。
図14-26 引張りせん断試験におけるラップ部の曲がり
引張り力Pが一定であれば、ラップ部での曲り方は、図14-27に示すように、(A1)→(A2)→(A3)とラップ長さが短くなるほど大きくなります。また、(A3)、(B3)に示すように、ラップ長が同じであれば、被着材の厚さが厚いほど曲がり方は大きくなります。なお、スポット溶接やねじ・ボルトなどの点接合では、ラップ部全体が接合されておらず、接合箇所は点状であるため、(B4)に示すように、点接合部で大きく曲がります。また、引張り力Pが一定であれば、接着層の厚さが厚いほど、ラップ部の曲がり方は大きくなります。
図14-27 引張りせん断試験におけるラップ部の曲がり方に及ぼすラップ長と被着材厚さの影響
このように、単純ラップ引張りせん断試験では、被着材に曲がりが生じるため、ラップ部には、せん断力だけではなく、引張り力が加わることになります。引張り力によってはく離力が加わると、ラップ端部で破壊しやすくなります。また、曲げに弱いセラミックスなどでは、ラップ端部で被着材が破壊してしまうこともあります。
<第16回>の「10.硬化した接着剤の物性 10.3 粘弾性体 (4)速度依存性」のところで述べたように、接着剤は<粘弾性体>であるために、高速で引張ると弾性的性質、低速で引張ると粘性的性質が強く表れます。このため、引張りせん断試験片を、高速で引張って試験すると破断荷重は大きくなり、低速で引張って試験すると破断荷重は小さくなります。
JIS K 6850 の「引張りせん断接着強さ試験方法」では、「65±20秒で接着部が破断するような一定速度」、あるいは「毎分8.3~9.7MPaの荷重速度」で引張ると書かれています。こんなことを書かれても困ってしまいます。接着剤や被着材によって破断するまでの時間は大きく異なるし、接着剤や被着材の弾性率が変わると荷重速度も変わります。引張り試験の引張速度を決めるために予備試験を行わなければなりません。冗談とも言えません。規格を作成している方々は、一体何を考えて、どこを向いて作成しているのでしょうか。
接着剤のカタログでは、5~10mm/min程度の引張速度でデーターを取られていることが多いです。接着剤より軟らかい粘着テープなどのカタログでは、100~300mm/minという非常に速い速度で試験されているようです。私は、時間はかかりますが1mm/minで行っていました。これは、ゆっくり引張ると、破断荷重が低めに出るため安全側のデーターが得られること、破壊に至るまでの時間が長いので、途中で生じる試験片の変形の状態や破壊開始時の状況など、試験の途中で種々の情報が得られるためです。
単純ラップ引張りせん断試験では、チャック間の距離によっても破断荷重が変化します。これは、(3)で述べた重ね合せ部の曲がり方が変化するためです。チャック間距離が長いほど、ラップ部の曲がり方は少なくなります。JIS K 6850 では、支持体を取り付けて、チャック間距離は111.5mmとされています。
二枚の被着材の傾き(厚さ方向、軸方向)も強度に影響します。接着層に引張り力が加わりやすくなったり、モーメントが加わったりするためです。
接着剤のはみ出しの有無、はみ出し量、はみ出し部の形状によっても測定結果が変化します。はみ出し量が多いほど、はみ出し部の形状がなだらかなほど破断荷重は高めの結果となります。
接着剤や樹脂系の被着材料は温度によって物性が変化しやすいため、測定時の環境温度の制御は重要です。
被着材の表面状態も影響します。これは、表面自由エネルギーや粗さが異なると、接着剤との結合の状態が変化するため、界面破壊や凝集破壊など破壊状態が変化するためです。めっきや塗装、コーティングなどの皮膜が形成された表面では、皮膜のハガレが生じる場合もあります。
14.5で述べたように、単純ラップせん断試験は多くの条件で結果が変化します。破断荷重値を接着面積で割って求めた<平均接着せん断強さ>は、<あくまでも目安>と考えてください。設計に用いるせん断応力値と考えてはいけません。応力集中や接着部の曲がり、被着材自体の耐力との関係などを考えると、純粋なせん断応力に比べると低めの結果が出るので、安全サイドの結果が得られるという点では良いのでしょう。こういう点から、試験の簡便さも考えれば、接着の試験法として最も多用されていることは理解できます。しかし、ある程度正確にせん断力を測定したい場合にはちょっと困ります。そこで、測定治具の点で引張りせん断試験より少し面倒になりますが、できれば圧縮せん断試験が好ましいと言えます。一例を図14-28に示しました。被着材1を割れやすい焼結磁石、被着材2を金属(鋼)、接着剤を一液加熱硬化型エポキシ、圧縮速度(クロスヘッド速度)0.1mm/minで測定した結果では、約75MPaの平均せん断強さまで測定ができています。圧縮せん断試験は、被着材がプラスチックのように引張強度が低いものや割れやすい脆性材料でも可能です。被着材の厚さを厚くすることも容易です。
図14-28 圧縮せん断試験の一例
次回は、引張り試験について述べます。
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