≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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<はく離強さ>は、単位がN/mと表されるように、単位幅当たりの荷重値を示すもので、<応力>ではありません。そのため、力学系の研究者はあまり関心が無いようです。力学系の研究者の関心が高いはく離的な評価法としては、<破壊靱性値>を求めるための<DCB試験>で、最近は多くの研究がなされています。<DCB試験>の試験片の作製方法や解析方法については、2025年11月10日に、産業技術連携推進会議(産技連)が、「接着接合部の破壊靭性値評価法の改良とその妥当性評価」(共同研究)の手順書を公開しているので、関心のある方は、https://regcol.aist.go.jp/sgr/kenkyukai/gnpolymer/information/00000136 をご覧ください。
<DCB試験>は、試験片作製やクラック長さの評価など難しい点も多々あり、接着剤をものづくりに適用しようとする企業の開発段階で、実際に使用する部材を用いて、表面状態、接着剤、プロセス条件、各種の劣化条件の影響などを多数のサンプルで評価するのには、あまり向いていないといえるでしょう。そこで、以下では、ものづくり企業の開発段階で最適条件と許容範囲を決めるためなどの評価試験として多用されている、JISやASTM、ISOなどで規格化されている被着材の塑性変形を伴うはく離試験について述べていきます。
すでに、<第47回>の「14.2 各種の接着強度の測定方法」の図14-7(D1)~(D5)で述べたので参照して下さい。
今回は、フィルムや布などの軟らかくて曲がりやすい被着材ではなく、構造強度が要求される部位に使用される金属やプラスチックなど(手で曲がる程度の厚さまで)の接着評価に多用されている<T形はく離試験>(<第47回>の図14-7(D1))と、一部、浮動ローラー式はく離試験(<第47回>の図14-7(D4))について述べます。
<第48回>の「14.4 接着強度の基準」の表14-1に示したように、<米国連邦規格MMM-A-132>のTypeⅠClass1では、T形はく離強度は室温で222N(22.6kgf)/25mm以上、TypeⅠClass2では、T形はく離強度は室温で89N(9kgf)/25mm以上とされています。一つの目安とすれば良いでしょう。
せん断強度がきわめて強い接着剤でも、はく離では手でもパリンと壊れてしまうものも多く有ります。このような接着剤で構造体を組み立てることは非常に危険です。また、構造用や準構造用接着剤のせん断力や引張り力は、数10MPaほどと、数cm2の接着部で車をつるすくらいは平気ですが、はく離強さは、100~400N(10~40kgf)/25mm程度で非常に弱いです。いかに強いかを評価するよりも、弱い点を評価しておくことは、非常に重要です。
実際の接着構造体を考えると、せん断力で支える構造を設計したとしても、接着部に加わるはく離力を完全になくすことなどできません。このため、はく離での破壊開始強さの大小と一旦破壊が生じた際のクラックの伝搬性の評価、即ち、破壊の進行に対する抵抗力の評価は非常に重要です。一旦接着端部がはく離すると、板が曲がることなく瞬間的に破壊が進行するようでは使い物になりません。板が曲がりながら徐々に破壊していけば、破壊進行に対する抵抗力が大きいと言うことができます。はく離試験を行うことで、箸にも棒にもかからないような接着剤を排除することができます。
はく離試験では、被着材と接着剤の結合界面に垂直方向に引張るため、せん断試験よりも接着剤と被着材との界面での結合力を敏感に評価することができます。界面での結合力が弱ければ被着材の表面で破壊する界面破壊となります。界面での結合力が高ければ、界面で破壊しないで接着剤の内部での凝集破壊となります。せん断試験では凝集破壊だったものが、はく離試験では界面破壊となることも多々あります。
せん断試験や引張り試験では、強度を破断点または最大荷重点で測定するため、<接着面内の平均化された一瞬の情報>しか得られません。これに対して、はく離試験は、長い接着部の端部から順に幅方向に線状に強度を測定していくために、接着部の位置による種々の情報を得ることができます。被着材料に表面処理が不十分な箇所が局所的にあって一部分が界面破壊したり、気泡の巻き込みや接着剤の塗布量不足などの接着欠陥が局所的にあったりすると、その部分ではく離チャートの強度が急に低下するので、接着性能の均一性を評価することができます。
図14-32は、二液室温硬化型ウレタン系接着剤で亜鉛めっき鋼板同士(1.2mm厚さと0.4mm厚さの組合せ)を接着して、浮動ローラーはく離試験で0.4mm側をはく離した際の強度の測定チャートです。(A)は、接着面全体にわたって、40kgf/25mm以上というきわめて高強度で、非常に安定した状態であることがわかります。破壊は全面完全な凝集破壊です。これに対して、(B)では、接着強度が全体に低下して、接着箇所によって荷重が大きく波打っています。これは、二液を混合・塗布した後に貼りあわせるまでのオープンタイムが長かったため、ウレタン系接着剤が水分の影響で発泡したためです。測定チャートとサンプルの破壊面を対比させると、発泡箇所では界面破壊となっています。(C)では、はく離チャートに大きな山谷がほぼ一定ピッチで表れています。これは、接着剤ではなく亜鉛めっきが徐々に剥がれているためです。このように、はく離試験では、接着部の位置による情報を的確に捉えることができます。
図14-32 浮動ローラーはく離試験における強度の測定チャート
(二液室温硬化型ウレタン系接着剤、亜鉛めっき鋼板同士)
せん断試験や引張り試験では、破壊荷重を測定するため、同じ試験片を再度測定することはできません。このため、同一条件で作製した別の試験片を用いる必要があります。しかし、同一条件で作製といっても、全く同一条件とは言えず、当然、ばらつきもあります。
これらに対して、はく離試験片は、接着部の長さが長いという大きな特徴があります。この特徴を使えば、例えば、図14-33に示すように、耐久性試験において、初期、7日後、14日後、30日後などの変化を、同じ試験片で評価することができます。
図14-33 同一試験片での繰り返し試験(浮動ローラーはく離試験)
図14-34には、あらかじめL字形に曲げた1.6mm厚さの軟鋼板同士を接着したT形はく離試験片の破壊形態の例を示しました。【A】は、チャックの移動につれて、接着端部から被着材が曲がりながら接着部が凝集破壊で徐々にはく離していて、良好なはく離状態です。【B】は、接着端部が破壊した途端に、被着材は塑性変形することなく大きく界面ではく離しています。【C】は、接着端部が破壊した途端に、被着材は塑性変形することなく接着部全体が界面ではく離して分離しています。(写真では、チャックがかなり移動していますが、破壊後すぐに停止させず、ある程度時間が経ってから写真撮影したためです。)【B】や【C】のような破壊形態は、構造接着や準構造接着では不適と言わざるを得ません。接着剤や表面状態、被着材の変更などをして、何とか【A】のような形態に持ち込む必要があります。
図14-34 T形はく離試験における破壊の形態の例
その他に、図14-35に示すように、一定距離ごとに、両被着材で交互に薄層凝集破壊を繰り返す破壊形態があります。構造用のエポキシ系接着剤など、界面での密着強度が高く、接着剤の弾性率も高い場合に見られる現象で、私は、<枕木状破壊>と呼んでいます。先に示した、浮動ローラー式はく離試験での図14-32の(C)のめっきはがれも類似のパターンです。
図14-35 T形はく離試験における枕木状破壊
図14-36は、はく離試験における測定チャートの模式図です。引張りを開始すると、まず、大きなピークが表れます。これは、接着端部の折り曲げ部が破壊する時の<初期ピーク>です。構造用接着剤や準構造用接着剤では、数kN(数100kgf)にもなります。これは、端部では接着層に対してほぼ垂直方向に引張り力が加わるためです。JIS等の規格では、初期ピーク値の大きさは無視されていますが、実際の構造体では重要です。
端部が破壊した後、【B】のように大きなはく離が生じたり、【C】のように瞬時分断が生じる場合は、図中の赤い破線や青い破線のように、強度は急激に低下します。良好なはく離状態を示す【A】では、荷重が増減を繰り返しながら、ほぼ一定の状態ではく離が進行します。一定のはく離状態の部分を<定常はく離部>と呼びます。定常はく離部での平均値を平均はく離強度と示します。図14-35で示した<枕木状破壊>の場合は、定常はく離部の荷重変動幅が大きくなります。
測定結果としては、初期ピーク強度、定常はく離部における平均強度、定常はく離部における最大強度、最低強度、<枕木状破壊>の場合は、枕木のピッチ、その他に破壊状態を記録します。
図14-36 T形はく離試験における測定チャートの模式図
次回は、理想的なはく離状態とその評価法、はく離試験の結果に影響する諸因子などについて述べます。
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