≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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接着の強度やいろいろな性能は様々な要因によって変化するものです。例えば、接着剤の物性や被着材の物性、表面の状態、接着部の形状や寸法、接着部に加わる力の方向、温度などさまざまな要因があります。以下に、接着剤の選定や、強度試験、接着継手の設計を行う際に必要な種々の要因とその影響について説明します。
この章では、部品や製品組み立てに接着を用いる企業の技術者が知っておくべきことを記します。接着の強度や特性の評価法にはさまざまなものがありますが、ここでは、接着の研究レベルでの評価試験の話ではなく、製品の組み立てに接着剤を適用する場合に、開発段階で多くの条件を振って最適なものを見いだすなど、多数の試験片を作製して簡易で安価な試験が行える一般的な評価法について述べます。
物体にかかる全体の力を<荷重>と言い、一般的にはニュートン(N)で表されます。荷重の種類には、「引張り」「せん断」「曲げ」「モーメント」「ねじり」などがありますが、基本は、図14-1に示すような「引張り」と「せん断」です。「圧縮」は、マイナス方向の荷重です。
<応力>は、物体にかかる全体の荷重Pを面積Sで割ったもので、単位はパスカル(Pa)で表されます。応力は、力学的には、「引張り応力(垂直応力)σ(シグマ)」と「せん断応力τ(タウ)」の2種類しか有りません。なお、加わる荷重値を元の面積Sで割ったものを正確には<公称応力>と呼びます。
図14-1 基本的な力(荷重)と応力
被着材と接着された接着部では、図14-2のように、被着材に加わった荷重が接着剤に伝わって負荷されます。(A)のように、被着材に加わる引張り荷重に対して接着面が90°の場合は、接着剤にも同じ引張り荷重が負荷されますが、(B)のように、接着面が被着材の引張り方向と平行な場合には、被着材に加わっている「引張り荷重」が、接着剤には「せん断荷重」として作用します。
はく離接着強度は N/mという単位で表されますが、これは単位幅当たりの荷重値を示す便宜的な表記で、応力ではありません。
図14-2 接着部への力の加わり方
荷重の加わり方としては、一時的な力や継続的な一定荷重(このような荷重を「静荷重」と言います)と、荷重が変動しながら加わる疲労や衝撃荷重(このような荷重を「動荷重」といいます)があります。
接着部の形状には様々なものがあります。いくつかの例を図14-3に示しました。(A)は板と板との部分重ね合わせ、(B)は板と板との全面接着、(C)は軸の勘合接着やパイプの差し込み接着、(D)はハニカムパネルや段ボールなどのサンドイッチパネル、(E)は隅肉接着で、ハニカムパネルにおけるハニカムとスキン材とのフィレットも隅肉状になっています。(B)の板と板の全面接着でも、接着剤を全面に塗布する場合や、線状や点状に塗布する場合などがあります。その他に、図14-2(A)に示した、突合せの接着もあります。
図14-3 接着部の形状の例
接着部には種々の方向から様々な力が加わりますが、いずれの力も引張り力とせん断力が組み合わされたものです。
せん断力としては、図14-4に示すように、板状の重ね合せ接着における引張りせん断力(A1) 、丸棒同士の突合せ接着(B1)や薄肉円筒の突合せ接着(B2)におけるねじりせん断力、軸やパイプなどの勘合接着における軸方向の引張りせん断力(C1) 、円周方向のねじりせん断力(C2) 、軸方向と円周方向の2方向に加わるせん断力(C3) 、曲げによるせん断力(D)などがあります。また、平面接着では、(A2)に示すように、面方向にモーメントが加わるとせん断力が加わります。
図14-4 せん断力の加わり方の例
引張り力としては、図14-5に示すように、中心軸でまっすぐに引張る均等引張り(A)、引張り軸が中心からずれた位置で引張る不均等な引張り(割裂)(B1) (B2) 、はく離(C)、曲げ(D1) (D2) 、片持ち曲げ(E1) (E2)などがあります。(C) のはく離で板が曲がりやすい場合は、接着端部の非常に小さな面積だけに引張り力が加わる<局所負荷>なので、弱い力で剥がれてしまいます。
図14-5 引張り力の加わり方の例
実際の接着部では、せん断力と引張り力が同時にかかる場合も多く、図14-6に示すように、ねじりと引張りが同時に加わる場合 (A1)(A2)、両端固定での曲げ (B1) (B2) 、L型金具などでの支持 (C1) (C2) などがあります。
図14-6 せん断と引張りの組合せ力の加わり方の例
接着の強度試験で良く使われている方法を図14-7に示しました。
(A) はJIS K6850の板/板の剛性被着材の<引張りせん断試験>で、単純重ね合わせ引張りせん断試験や単純ラップ引張りせん断試験とも呼ばれます。試験片の幅は25mm、重ね合わせ長さは12.5mm、標準板厚は金属板では1.6mm、プラスチックや複合材料では3.0mm程度となっています。しかし、高強度接着剤では、接着部の強度が被着材自体の強度を超えてしまうと、被着材が伸びたりちぎれたりして正確な値が得られなくなります。この点については、後述します。
(B1) はJIS K6849の<引張り試験>で、丸棒や角材が使用されます。(B2) はASTM C297のハニカムパネルの引張り試験で、<フラットワイズ引張り試験>と呼ばれているものです。四角く切り出したハニカムパネルを強力な接着剤で角棒に接着して引張るものです。
(C) はASTM D393のハニカムパネルの<曲げ試験>です。主に、曲げ剛性や座屈強度を求めるために使用されます。
図14-7 代表的な接着強度の測定方法
(D1)~(D5) は、<はく離試験>の方法です。(D1) はJIS K6854-3の<T形はく離試験>で、鋼板の場合は板厚0.5mm、アルミ板の場合は板厚0.5mmまたは0.7mmが標準となっています。(D2) はJIS K6854-1の<90度はく離試験>で、標準板厚は金属もプラスチックも1.5mmとなっています。(D3) はJIS K6854-2の<180度はく離試験>で、標準板厚は金属1.5mm、プラスチック1.5mmとなっています。(D4) はJIS K6854-4の<浮動ローラはく離試験>で、薄板の厚さは金属板では0.5mmとなっています。<浮動ローラはく離試験>は、(D1) のT形はく離試験より安定したデーターが得られるため、私は多用していました。なお、(D1)~(D4)などのはく離試験で用いる被着材の厚さは、規格に合致させる必要性は全くありません。規格に書かれている厚さがどうやって決められたのかも良くわかりません。製品で実際に用いる材料で行うのが基本です。
(D5) はASTM D1781のハニカムパネルのはく離試験で、<クライミングドラムはく離試験>と呼ばれているものです。
(E) はJIS K6853の<割裂試験>で、剛体のはく離試験のようなものです。
(F1) はJIS K6855の<衝撃試験>で、アイゾット衝撃試験機の振り子をぶつけてせん断衝撃を測定するものです。(F2) はJIS K6856の<くさび衝撃試験>です。接着部に高速でくさびを打ち込んだ時の破壊エネルギーを測定するもので、最近はこの試験が重要視されています。
以上に、各種の接着強度の測定方法を示しましたが、これらの中でも、<接着剤>の評価に最も良く用いられているのは板/板の<引張りせん断試験>です。接着剤のカタログでも、ほとんどのデーターは<引張りせん断試験>によるものが示されています。次に多く実施されているのは<はく離試験>ですが、<接着剤>の評価では、<引張りせん断試験>に比べるとかなり少ないと言えます。上で、<接着剤>ではと書いたのは、両面テープや粘着テープなどの<粘着材>の評価では逆になっているからです。即ち、<粘着材>の評価では、<はく離試験>が圧倒的に多く、<せん断試験>はかなり少ない状況です。<粘着材>のカタログでは、<はく離強度>主体で書かれていて、<せん断強度>に関する記述はかなり少ないといえます。
JISやASTM、ISOなどの規格では、標準板厚などが規定されていますが、被着材料の材質や表面状態、板厚などが変わると接着強度は大きく変化するので、接着剤のユーザーが試験を行う場合には、実際の製品で使用するものと同じ材質、板厚の被着材を用いることが重要になります。ただし、被着材自体の強度より接着部の強度が高ければ接着部の強度を正しく測定することはできません。この点については、後述します。
試験法も実際に加わる力の状態を考慮して適切な方法を選択する必要があります。また、規格の条件を過度に重視しないで、実態に合わせて修正して実施しましょう。
次回は、一般的(規格)ではないが、重要な強度試験法、接着強度の基準、引張りせん断試験の結果に影響する諸因子などについて述べます。
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