≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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接着体の引張り試験とは、<第47回>の図14-5(A)、図14-7(B1)、<第48回>の図14-10など示したように、接着層の厚さ方向の引張り力を測定するものです。
JISでは、「接着剤の引張り強さ試験方法」としてK 6849に規定されています。この規格では、図14-29【A】に示すように、直径12.7mmの丸棒同士や一辺12.7mmの角棒同士を接着して、接着面に垂直方向に引張ります。
図14-29 JIS K 6849 接着剤の引張り強さ試験方法
ASTM C297 には、ハニカムサンドイッチパネルの引張り試験法として、<第47回>の図14-7(B2)に示したフラットワイズ引張り試験が規定されています。切り出したハニカムサンドイッチパネルを引張りブロックに別の接着剤で接着して引張ります。ただ、ハニカムコアのセルサイズは様々なため、コアサイズ(一つの蜂の巣の大きさ)が3mm以下の場合は25mm角、3~6mmの場合は50mm角、6~9mmの場合は75mm角のサンプルと引張りブロックを用います。これは、セルサイズが大きくて引張りブロックが小さいと、ハニカムパネルの切り出す位置によってコアの接着長さがばらつきやすいためです。
フラットワイズ法は、ハニカムパネルに限らず、直接ブロックができない板材を接着したものや、割れやすい材料を接着したものを別の接着剤で引張りブロックに接着して引張強度を測定する際にも使用されます。
その他に、建材関係では、モルタルやタイルの接着試験法として、モルタルやタイル面にブロックを接着して油圧やねじで引張る「建研式引張り試験」が用いられています。
引張り試験で非常に重要なのは、接着面に垂直に均一に引張るということです。そのためには、引張りの荷重軸は常に接着面の中心で接着面に垂直でなければなりません。荷重軸が常に接着面の中心で接着面に垂直になるようにするためには、接着体の丸棒や角棒は試験片保持具にピンで留めます。丸棒や角棒をチャックで掴むと荷重軸は正しく出ません。上下のピンの差し込み方向は90°になるようにしておきます。(JISの図では、図14-29【B】のように、試験片取り付け用ピンが上下の被着材で平行になっていますが、90°方向にすべきです。)また、試験片保持具の上下にはユニバーサルジョイントを取り付けねばなりません。
荷重軸が、<第47回>の図14-5(B1)のように中心からずれると、均一な引張り応力が加わらなくなり、試験結果の信頼性はなくなります。
すでに述べたように、せん断試験では、接着剤の弾性率が高いと、ラップ長さが長くなると単位面積当たりのせん断強さは低下します。では、引張り試験では、接着面積や接着部の形状はどの程度影響するでしょうか。
図14-30は、被着材(SUS304)の接着面の形状を円形、正方形、正三角形として、それぞれの直径や一辺の長さを変化させた場合の引張り試験の結果です。横軸は接着面積で、縦軸は、引張り破断荷重と単位面積当たりの引張り強さで示してあります。この結果より、接着面の形状が円形、正方形、正三角形と異なっても接着面積が同じであればほとんど同じ強度が得られています。また、引張り破断荷重値は、接着面積に比例して直線関係になっています。単位面積当たりの引張り強さは、若干のばらつきはありますが、接着部の面積・形状にかかわらず、ほぼ一定となっています。
上記の結果でもわかるように、引張り試験においては、接着面全体にほぼ均一な応力が加わっていると考えて良いでしょう。(厳密には、接着部の周囲に僅かに応力集中部が生じますが、ほとんどの部分では応力集中は生じません。)
図14-30 形状、寸法が異なる突合せ引張り試験片における接着面積と強度の関係の例
(SUS304同士、接着剤:SGA)
引張り試験でも、せん断試験と同様に、接着剤の弾性率が低いほど、引張り強さは低下します。
同じ接着剤の場合、温度が高くなると一般に接着剤の弾性率は低下するため、高温では引張り強さは低く、低温では引張り強さは高くなります。(<第49回>の図14-17参照)
<第16回>の「10.硬化した接着剤の物性 10.3 粘弾性体 (4)速度依存性」のところで述べたように、接着剤は<粘弾性体>であるために、高速で引張ると弾性的性質、低速で引張ると粘性的性質が強く表れます。このため、引張り試験片を、高速で引張って試験すると破断荷重は大きくなり、低速で引張って試験すると破断荷重は小さくなります。
図14-29に示したJIS K 6849 の「接着剤の引張り強さ試験方法」では、「荷重速度3.92kN(400kgf)/min以下またはクロスヘッド速度50mm/min以下」で引張ると書かれています。クロスヘッド速度50mm/minはかなり早いので、引張り試験では、一般に数秒で破壊に至ってしまいます。私は、時間はかかりますが1mm/minで行っていました。これは、ゆっくり引張ると、破断荷重が低めに出るため安全側のデーターが得られること、破壊に至るまでの時間が長いので、途中で生じる試験片の変形の状態や破壊開始時の状況など、試験の途中で種々の情報が得られるためです。
せん断試験では、接着層の厚さが厚くなるにつれてせん断強さは低下します。では、引張り試験ではどうでしょうか。
図14-31は、セラミックスと金属をクロロプレン系ゴムで加硫接着(各被着材表面には、プライマーとしてケムロックを塗布)した引張り試験片(<第48回>の図14-10参照)におけるゴム層(接着層)の厚さと破断時の引張り応力、伸び量、伸び率の関係の測定結果です。25℃で測定した結果【A】では、ゴム層(接着層)の厚さが厚くなるにつれて、破断時の引張り応力はほぼ直線的に低下しています(水色の線)。破断までのゴム層(接着層)の伸び量(ピンクの線)は、引張り応力とは逆に、ゴム層(接着層)の厚さが厚くなるほど大きくなっています。同じ柔らかさのものが厚くなるほど伸び量が大きくなるというのは、感覚的にも理解できます。しかし、破断までの伸び率(即ち、破断時の伸び量/元の厚さ)は、赤色の線のように、ゴム層(接着層)の厚さが厚くなると小さくなっています。【B】は、70℃での測定結果ですが、厚さに対する引張り応力(水色の線)、伸び量(ピンクの線)、伸び率(赤色の線)の関係は、25℃の場合と同じです。破壊状態は、25℃でも70℃でもいずれの厚さでもほぼ凝集破壊率は100%です。
図14-31 セラミックスと金属のクロロプレン系ゴム加硫接着におけるゴム層の厚さと
引張強度、破断伸び量、破断伸び率の関係の一例
なぜ、接着層の厚さが厚くなると破断伸び率が低下するのでしょうか。<前回>のせん断強さに及ぼす接着層の厚さの影響のところで述べたように、さまざまな理由が考えられますが、その他に、<ネッキング現象>や<キャビティー>の発生位置や形状・大きさが厚さで異なることが考えられます。<ネッキング現象>とは、材料の引張り時に、局部的にくびれが生じる現象、<キャビティー>は空洞状の欠陥部のことです。
今回は、<引張り試験>について述べましたが、次回は、<はく離試験>について述べます。
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