≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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<第32回>の「12.5 定荷重(応力)耐久性(クリープ耐久性)」で述べたように、接着部に一定の荷重が加わり続けることで生じるクリープは、接着部の劣化に大きく影響する重要な要因です。クリープは接着部に加わっている荷重が大きいほど、温度が高いほど生じやすく、クリープを防止するためには、接着部に荷重が加わり続けない構造にすることが必要です。しかし、構造的にクリープを回避するためには、構造が複雑になるなどの課題もあります。そこで、複合接着接合法が効果を発揮します。
図13-15(<第33回>の図12-51の再掲)は、接着のみ、接着+リベット(リベットボンディング)、接着+スポット溶接(ウェルドボンディング)の定荷重負荷による破断時間と接着部のズレ変形率εの経時変化の比較を示したものです。軟鋼板同士を幅25mm、重ね合せ長さ20mmで、二液室温硬化型アクリル系接着剤(SGA)で接着したもので、リベットやスポット溶接は接着部の中央部に1点施工しています。図13-15(左)は、60℃90%RH雰囲気中での継続荷重負荷による破断時間の比較です。この結果から、リベットを1点併用すると、定荷重耐久性は大きく向上し、1000時間強度は約3倍高くなっています。スポット溶接を併用した場合は、大きな荷重が加わり続けても破断していません。図13-15(右)は、60℃雰囲気中で3kNの荷重を負荷した場合の、接着部のズレ変形率εの経時変化です。接着だけでは、時間とともにズレが大きくなりやがて破断しますが、リベットを併用すると、変形速度が小さくなり、スポット溶接を併用した場合はほとんど変形が生じていないことがわかります。
図13-15(再掲) 接着のみ、リベットボンディング、ウェルドボンディングの定荷重耐久性とズレ変形率εの経時変化の比較
図13-16は、せん断試験片に引張り荷重を負荷して、一定変位で保持した場合の荷重の変化、即ち、<応力緩和特性>を示したものです。図13-16(左)は、ウレタン系接着剤のみで接着したものとスポット溶接を併用したウェルドボンディングの比較で、50℃雰囲気中で試験したものです。接着のみのものは、負荷直後から大きく応力緩和して、60分後でも緩和が続いています。これに対して、ウェルドボンディングでは、負荷直後に僅かに緩和しますが、その後は応力緩和は観察されていません。図13-16(右)は、柔軟なエポキシ系接着剤のみで接着したものと3種類の異なるリベット[R3]、[R4]、[R5]を併用したリベットボンディングの比較で、室温中で試験したものです。接着のみのものは、負荷直後から大きく応力緩和を起こして、50分後には破断していますが、リベットを併用したものは、負荷直後に僅かな応力緩和が見られますが、その後は応力緩和は観察されていません。
図13-16 接着とウェルドボンディング、リベットボンディングの応力緩和特性の比較
これらの結果から、複合接着接合法では、接着以外の接合箇所が荷重分担し、金属はクリープを起こしにくいため、接着部のクリープや応力緩和を大きく低減できることがわかります。
<第20回>の「11.7 被着材の変形によって生じる応力」の「(4)部品のスプリングバックによるクリープ力」で述べたように、反った部品をむりやり冶工具で押さえつけて接着して、硬化後冶工具を外すと、接着部には部品が元の形に戻ろうとするスプリングバック力が働きます。この力は、長期間加わり続けるため、接着部がクリープ変形やクリープ破壊を起こすことにもつながります。
接着と他の接合法を併用することで、スプリングバック力は作用しなくなります。
図13-17は、接着のみ、リベットボンディング、ウェルドボンディングのせん断試験片に、種々の大きさの引張り荷重Pを加えた状態で60℃90%RH雰囲気中に暴露し、経時的に取り出して残存強度を測定したものです。P=0は無負荷です。この結果より、接着のみのものは、0.75kN以上負荷すると暴露中に破壊してしまいます。これに対して、リベットボンディングでは、1.25kNの負荷でも、0.5kN負荷の接着のみのものより劣化が少なくなっています。ウェルドボンディングでは、2.5kNの負荷でも、1.25kN負荷のリベットボンディングより劣化は少なくなっています。このように、複合接着接合法により、荷重負荷状態での接着の水分劣化を低減することができます。これは、リベットやスポット溶接部が負荷荷重を分担することで、接着部に加わる荷重が低下しているためと思われます。
図13-17 応力負荷状態での耐湿性の向上効果
(接着とウェルドボンディング、リベットボンディングの比較)
図13-17で用いた被着材は軟鋼板であるため、高湿度中の暴露で、接着部の周囲から侵入した水分によって接着部の周辺に赤さびが発生します。図13-18(<第33回>の図12-55の再掲)(左)は、図13-17のサンプルでのラップ端部からの赤さび発生量Lの変化を示したものです。接着のみのものは、0.5kN60日間負荷後にラップ端から約2.4mmの赤さびが見られます。これに対して、リベットボンディングでは、1.0kNの負荷でも2.2mm、ウェルドボンディングでは、1.5kNの負荷でも1.7mmと赤さび発生量は少なくなっています。図13-18(右)は、60日後における負荷荷重Pと赤さび発生距離Lの関係を示したものです。この結果より、複合接着接合法では、荷重負荷での接着の水分劣化を低減できることがわかります。
図13-18(再掲) 応力負荷状態での赤さび発生量の比較
(接着とウェルドボンディング、リベットボンディングの比較)
ネジやボルト、リベット、スポット溶接などは「点」での接合です。そのため、接合部にシール性が必要な場合には、接合後にシール材を塗布するのが一般的です。しかし、薄板の重ね合せ接合では、重ね合せの端面に盛り付ける必要があり、ネジやボルト、リベットの頭にも塗布する必要があり、見栄えや手間の点で問題があります。一方、ネジやボルト、リベット、スポット溶接などの締結前に接合面に接着剤やシール材を塗布しておいて接合すると、接合面内はもちろん、ネジやボルト、リベットの穴部分のシールも同時にできます。接着剤やシール材は部材間に挟まれているため、外部シールに比べて剥離しにくく、シール性能も向上します。
機器の軽量化・高機能化によって異種材料の接合が増加しています。
電位が異なる金属同士が接触している部分に水や電解液が浸入すると、電気化学反応(ガルバニック反応)によって局部電池ができて、電位が低い材料側に腐食が生じます。このような腐食を<電食(ガルバニック腐食)>と言います。電食は、電位差が大きい金属同士、特に鉄と銅(電位:鉄<銅)、アルミニウムと銅(電位:アルミ<銅)、亜鉛と鉄(電位:亜鉛<鉄)、鉄とステンレス鋼(電位:鉄<ステンレス)などの組み合わせで多く見られます。
また、CFRPは炭素繊維が電気を通し、かつ電位が高い材料であるため、炭素繊維よりも電位が低いアルミなどの金属と接触した状態では電食が生じます。
電食を起こしやすい異種材料の接合時に、両部材の間に接着剤やシール材を塗布して貼り合わせることによって、両部材の接触部や部材とネジの接触部などに、水や電解液が浸入することを防止して、電食を防止することができます。
板金部品の接合などを、ネジやボルト、リベット、スポット溶接などの点接合で行うと、接合点間の薄い部材が振動して騒音を発しやすいという問題があります。ここに、接着剤を併用すると、接合点間の部材同士が接着されて振動が抑えられます。特に、少し柔らかめの接着剤を用いると、制振鋼板のように、接着剤が振動を吸収して音が静かになります。
接着による振動吸収性は、例えば、30cm角程度の二枚の板金をネジやボルト、リベット、スポット溶接などで接合したものと、接着したものを、床に落下しただけでもその違いを確認することができます。点接合だけのものは、落とすと数回跳ね返りますが、接着したもの、特に、少し柔らかめの接着剤を用いた場合は、ほとんど跳ね返りません。手で面を叩いてみてもわかります。点接合だけのものは、ガンガンと金属音がしますが、接着剤で貼り合わせたものはコンコンと木をたたくような音がします。
箱体や枠体は、アングル材を用いてネジやボルトで組み立てられるのが一般的です。皆さんもラックなどを組み立てられたことがあると思います。しかし、箱体や枠体をネジやボルトで組み立てるとぐらぐらします。これは、点での接合のためです。このようなぐらつきやすい状態は、箱体や枠体としての<剛性が低い>と言われます。剛性を高くするには、部材の厚さを厚くしたり、補強材を入れたり、接合箇所を増やしたり、強力なネジやボルトなどを用いるなどで対応できますが、重量増加やコストアップにつながってしまいます。工業製品では、溶融溶接やスポット溶接で組み立てられる場合も多くあります。しかし、立体的なものをスポット溶接で組み立てるのは、溶接機のふところ長さや、固定式溶接機ではワークを動かさなくてはならないなど簡単ではありません。溶融溶接での組み立ては、熟練技能者が必要、溶接歪みの修正作業に多大な労力を必要とするなどの課題があります。
これらの接合法に比べて、接着を用いて組み立てると、点や線での接合ではなく面での接合となるため、部材の厚さを厚くしなくても剛性を高くすることができます。しかし、接着だけで立体的なものを組み立てるには、硬化までの冶工具での固定が必要なため、生産性は悪くなります。そこで、ネジやボルト、リベットなどを冶工具代わりに用いて接着を併用すると、薄板でも剛性が高く、生産性にも優れた製品を作ることができます。
図13-19は、アルミのアングル材を用いて各種の接合法(溶融溶接、スポット溶接、ボルト・ナット、リベット、接着)で組み立てたフレーム構造体です。溶融溶接以外はブラケットを介して接合しています。この構造体に7kgのウェイトをのせて、ホワイトランダム波で振動させて振動特性を測定しています。その結果、固有振動数(共振周波数)は、一般に高いほど良いですが、接着 > 溶融溶接> スポット溶接 > ボルト・ナット > リベット の順で、接着は溶融溶接よりも高くなっています。バネ定数(剛性)は、高いほどぐらつきにくいですが、接着 > 溶融溶接 > スポット溶接 > ボルト・ナット > リベット の順で、接着は溶融溶接よりも剛性が高いことがわかります。揺れの大きさを表す応答倍率は、小さいほど良いのですが、接着では溶融溶接より小さくなっており、粘性減衰係数比は、高いほど短時間で揺れが収まりますが、接着は溶融溶接よりも高いことがわかります。
このように、リベットやボルト・ナットなどと接着を併用することによって、容易に剛性に優れた箱体やフレーム構造体を製作することが可能となります。
(出典) 三菱電機(株)カタログ「接着・リベット併用組立法MELARS」(2006).
(出典) 原賀康介、佐藤千明著;「自動車軽量化のための接着接合入門」,日刊工業新聞社,P.80-81(2015)
図13-19 フレーム構造体の各種接合法による振動特性の比較
次回も引き続き「接着以外の接合法の課題の改善」について述べます。
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