≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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接着される二つの被着体の材質、形状・寸法が全く同じであれば、室温で硬化しても加熱硬化しても、使用中に接着体の温度が変化しても、接着体全体が同じ温度になっていれば、図11-16(A)のように、接着体(接着したもの)に反りは生じません。しかし、接着体の内部に温度分布が生じると変形が生じます。図11-16(B)は、(A)の片面の温度が高く、もう一方の面の温度が低くなった場合の変形を示しています。
被着体の剛性が高い場合は、反りは生じませんが、接着界面に大きな内部応力が発生することになります。
このように、同じ部材同士だと接着したものに変形が生じないと考えると、痛い目に遭うことがあります。注意しましょう。
図11-16 同一部材同士の接着における部品全体の温度分布による変形
図11-17(A)は、線膨張係数が小さな高剛性の部品①に、線膨張係数が大きな低剛性の部品②を、ぴったりの寸法ではめ込んで接着したものです。この部品が熱せられて高温になると、はめ込まれた低剛性の部品②が部品①より大きく膨張しますが、面方向に逃げ場がないため、(B)のように部品②に反りが生じます。接着剤が加熱硬化型であれば、接着剤が硬化する前に、周囲から空気が引き込まれて接着欠陥が生じます。室温硬化型接着剤を用いて、室温で(A)の状態になっている場合は、加熱後(B)の状態となり、接着はく離が生じてしまいます。接着剤の硬化温度や使用時の温度を考慮して部品の寸法を決めておきましょう。
図11-17 はめ込み接着における部品の変形
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図11-18は、接着・硬化された部品が急激に加熱されたり冷却される際に生じる被着材の変形状態を示したものです。図中の①は、接着・硬化された部品の室温での状態です。
この部品が、半田ディップなどで急激に加熱されると、②のように、部品の表面は短時間で高温になりますが、接着部付近には熱がまだ伝わっていないため、被着材の内部には大きな温度勾配が生じ、太鼓状に反ることになります。②の状態では、接着剤は被着材に引張られた状態になっており、界面での結合力が弱ければ界面ではく離し、接着剤の破断伸び率が被着材の変形量以下であれば接着剤の内部で破壊が生じます。例えば、①の状態での接着層の厚さが10μmで、②の状態で接着部中央部の被着体間距離が20μmに拡がったとすると、接着剤の破断伸び率は100%以上なければ、接着剤の内部で破壊することとなります。シリコーンゴム系接着剤などは何とか追従できますが、エポキシ系接着剤などの弾性率が高い接着剤の破断伸び率はかなり小さいため、破壊が生じてしまいます。
その後、部品全体が高温になると、③のように、被着材の変形はなくなります。
冷却段階では、急激な冷却を行うと、表面付近は収縮するため、④のように、鼓状に反ることになります。④の状態では、被着材の端部付近の接着剤は被着材に引張られた状態になっており、界面での結合力が弱ければ界面ではく離し、接着剤の破断伸び率が被着材の変形量以下であれば接着剤の内部で破壊が生じます。
その後、全体が室温に戻ると、①のように、元の状態に戻ります。
図11-18 急激な温度変化による部品内部の温度勾配の影響
ここで注意が必要なのは、①や④のように、加熱や冷却処理が終了した部品の外観をみても、②や④の段階で生じた界面でのはく離や接着剤の破壊は見つからないことです。良品としてフィールドに出て行くと、やがては思わぬトラブルを引き起こしかねません。接着剤の材料設計(破断伸び率)、接着層の厚さ、加熱や冷却速度などを最適化しておくことが必要です。
接着したものに高温/低温の温度サイクルを加える<冷熱繰り返し試験>があります。冷熱繰り返し試験には、雰囲気温度の上昇や下降をゆっくり行う<ヒートサイクル試験>と、高温雰囲気と低温雰囲気を短時間で移動させる<ヒートショック試験>があります。一般に、<ヒートショック試験>では<ヒートサイクル試験>より厳しい結果となります。この理由は、ここで説明した被着材内部の温度勾配による被着材の変形の有無の違いと考えられます。
ロールに巻かれていたプラスチックフィルムから打ち抜かれた部品などでは、図11-19(A)のように反っていて、押さえつけても平らにならない場合は多々あります。反っている部品でも(B)のように押さえつけて貼り合わせると(C)のように平らになります。しかし、貼り合わせ後に加圧を解除すると、反っていた部品には、もとの形に戻ろうとする<スプリングバック力>が作用します。<スプリングバック力>は、長時間<クリープ力>として作用するため、接着剤が高温で軟らかくなったり、長期間の使用中に、(D)のように、徐々にはく離することとなります。特に、軟らかい接着剤や粘着テープなどでは起こりやすい現象です。
このような問題を回避するためには、接着前の部品段階で反りを矯正しておくことが必要です。
図11-19 部品のスプリングバック力によるはく離
金属のプレス部品の接着では、二つの部品がピタリと合わないことが多いため、接着剤を塗布した後に大きな力で押さえ込んで接着することが度々あります。しかし、この場合も加圧を解除すると、部品には<スプリングバック力>が常時作用することとなり、はく離や耐久性の低下をきたすこととなります。自動車の車体組立などの板金接着では、接着剤とスポット溶接やかしめ、リベットなどを併用する<複合接着接合法>が用いられています。<複合接着接合法>では、スポット溶接やかしめ、リベットなどが加圧治具の代用となっており、接着剤硬化後も加圧された状態を維持しているため、<スプリングバック力>による接着剤のクリープは回避されています。<クリープ>は、接着の劣化に大きな影響を及ぼすため、<スプリングバック力>対策は、構造設計、プロセス設計の段階で十分に考慮することが大切です。
次回は、被着材の変形によって生じる応力の中でも、トラブルが多い「異種材料の嵌合接着」について述べたいと思います。
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