≪接着・原賀塾≫
講師:(株)原賀接着技術コンサルタント
首席コンサルタント、工学博士
原賀康介
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pdfファイル版(第1回~第25回)販売のお知らせ
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接着部が外力を伝えたり、支えたりする用途では、高温/低温で生じる熱応力の繰り返しによる劣化だけでなく、定荷重劣化(クリープ)や繰り返し疲労劣化も同時に起こります。高温/低温の繰り返しによって接着界面にはく離が生じたり接着剤自体が破壊されると、外力を支える接着面積は小さくなり、そこに一定の荷重が負荷されていると、接着部に加わる応力値は高くなっていきます。接着部に加わる応力値が高くなるにつれて、定荷重劣化(クリープ)や繰り返し疲労劣化は加速されます。
<第19回>の「11.接着の内部応力」の「11.6 吸水によって生じる<吸水膨潤応力>」の「(3)吸水した状態での高温、低温使用によるはく離」でも述べたように、接着剤や界面が吸水した状態で、0℃以下になると、水分は凍って体積膨張を生じるため、界面での剥離が生じやすくなります。また、高温では、水蒸気となり、界面に溜まって界面で剥離を生じやすくなります。界面に生じたはく離部に水分が侵入すると、0℃以下では体積膨張によるくさび効果でクラック状のはく離部を広げます。
このため、高温/低温を繰り返す途中で吸水を起こすと、劣化は促進されます。
冷熱サイクル試験は、一般に、<第36回>の図12-70【A】に示したような、JIS等に規定された引張りせん断試験片を用いて行われています。この場合、被着体は板状、接着箇所は平面状の1箇所、接着面積は12.5mm×25mm、被着体の拘束はなし、外力の負荷も無し、という条件です。しかし、ここまで述べてきたように、被着体の拘束の有無、接着部の形状・寸法、被着体の厚さ・剛性、接着剤層の厚さなどにより、接着部に生じる応力は大きく変化します。これらの点から、試験片での結果と実際の接着部での結果が大きく食い違うことはしばしば起こります。簡単に言うと、規格の試験片では冷熱疲労耐久性はわからないと言うことです。
熱疲労試験は、実際の部品を用いて、部品の拘束状態や外力の負荷なども考慮して実施する必要があります。
熱疲労試験では、一定サイクル暴露ごとに取り出して破断試験を行い、横軸に繰り返しの回数を、縦軸に残存接着強度をプロットします。しかし、熱疲労試験、特に、ヒートサイクル試験は1サイクルに要する時間が長いため、せいぜい数百サイクル程度までしか試験を実施しないことも多々あります。その場合に、さらに長期間サイクル試験後の強度はどのように考えれば良いのでしょうか。
まず、初期状態での凝集破壊状態を確認しておいて、一定サイクルごとの破断試験後にも凝集破壊の状態を観察します。一般に、200~300サイクル程度暴露後まで、凝集破壊の状態が初期状態と変わらず、界面破壊に移行していないことが確認できれば、図12-82【A】のように、必要な回数まで直線外挿して劣化後の強度を推定すれば良いでしょう。凝集破壊にもかかわらず強度が徐々に低下するのは、接着剤の延性や塑性変形によるものと考えられます。
一方、初期に凝集破壊であったものが、冷熱繰り返しの回数の増加とともに、界面破壊に移行する場合も多く見られます。このような場合は、【B】に示すように、サイクル数が多くなると、徐々に強度低下は少なくなります。これは、接着部の周辺から界面破壊が進行すると、残った凝集破壊部分の長さが徐々に短くなっていくため、熱応力が小さくなっていくためと考えられます。ただ、長期サイクル試験後にどの程度の強度で安定するかは簡単にはわかりません。
【A】や【B】の試験では、一般に接着部に外部荷重は加えられていません。しかし、実際の製品の接着部では外力が加わる使われ方をする場合はどうなるでしょうか。繰返し回数の増加とともに、接着部の周囲から界面での破壊が拡がると、接着している面積は小さくなっていきます。この小さくなった面積に、一定の外力が加わると、接着部に加わる応力値は高くなります。そうなると、【C】に示すように、接着強度ゼロに向かって強度低下していくことになります。製品の接着部に外力が加わる場合は、冷熱サイクル試験の途中から界面破壊部分が増加してきた場合は、【B】ではなく【C】のパターンになることを考慮して、対策を講じなければなりません。
図12-82 熱疲労試験の劣化曲線の見方
(4-4) ⑥で述べたように、高温と低温を急激に繰り返すと、被着体内部の温度勾配によって接着部はダメージを受けます。高温と低温をゆっくり繰り返すと、被着体内部の温度勾配は小さくなります。急激な温度変化を与えるヒートショック試験の方が、ゆっくりと温度変化を与えるヒートサイクル試験より厳しいのはこのためです。①で、実際の部品を用いて試験を行うべきと述べましたが、昇温冷却の速度も実際の部品での温度変化の速度に合わせるべきです。なお、高温・低温での保持時間は、接着体全体が均一な温度になれば良く、それ以上に長くとる必要はありません。試験の前に、接着部に熱電対を挟むなどして、温度の時間経過を測定して決めるのが良いでしょう。
高温域を広げる場合は、接着剤のガラス転移温度(Tg)以上に加熱することは無駄です。それは、Tg以上の温度になると、接着剤の弾性率は大きく低下するため、熱応力は小さくなってしまうためです。高温域は、接着剤のTgか少し下の温度までとしましょう。
低温域を広げることは熱応力を増加させる効果があります。それは、一般に低温になるほど接着剤の弾性率が高くなるためです。低温域を広げて熱応力を高くすると、強度低下の速度は速くなるので、初期のスクリーニングなどで短時間に評価したい場合は、高温側は後回しとして、まずは、液体窒素(-196℃)中や、ドライアイスとエタノールを混合した液(約-70℃)中に浸漬するような極端な試験を行うこともあります。しかし、低温域を広げた試験が、製品の使用温度範囲の最低温度での試験に対して、どのくらいの加速になっているのかを求めるのは容易ではありません。
熱疲労も熱応力の繰り返しによる劣化なので、温度変化を与える代わりに外力の繰り返しで試験ができれば、短時間で高サイクルの評価ができます。
やり方としては、温度変化に伴って接着部に生じる応力値をFEMA(有限要素法解析)などで計算して求め、その応力を外力として加えて、一定サイクルごとに取り出して残存強度を測定したり、破壊までの回数を求めてS-N線図を描きます。
しかし、金属やセラミックスなどの材料単体や、金属同士の溶接体のように、低温から高温の広範囲の温度域で物性が変化しない場合はよいのですが、接着物の場合は、外力の繰り返し試験を実施する温度での接着剤の物性や界面での接着力と、熱応力が大きくなる温度での接着剤の物性や界面での接着力の違いによる影響なども考慮せねばならないため、接着剤の場合は簡単ではありません。
(4-4)で述べたように、接着層の厚さは可能な限り厚くすることです。隅肉接着の場合は、二つの部品を密着させず、若干の隙間を作ると良いでしょう。
接着剤の硬さは軟らかいほど、破断伸び率は大きいほど変形追従性は増加します。
熱応力がゼロとなる温度は、接着剤を硬化したときの温度です。接着剤の硬化温度と製品の使用温度範囲の最高温度(または、接着剤のガラス転移温度Tg)との温度差と、接着剤の硬化温度と製品の使用温度範囲の最低温度の温度差を考慮して、室温硬化型の接着剤でも60℃や80℃などの中温で硬化させるなど、最適な硬化温度を探ることも必要です。
<第26回>から13回にわたって<接着の耐久性(劣化)>について述べてきました。
次回からは、接着剤とその他の接合法を併用する<複合接着接合法>について述べたいと思います。
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