≪接着・原賀塾≫

講師:(株)原賀接着技術コンサルタント

首席コンサルタント、工学博士

原賀康介

 

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講師:原賀康介

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12.7 疲労耐久性

(4)温度変化の繰り返しによる熱疲労

 (4-1) <熱応力>と<熱疲労>

接着部が高温/低温の温度変化を受けると、接着剤と被着体との線膨張係数は異なり、接着剤と被着体表面との結合部は動けないため、接着部には<熱応力>が加わります。また、急激な温度変化が加わると、接着部品内に温度勾配が生じて、被着体が熱変形して接着部に<熱応力>が加わります。高温/低温の温度変化が繰り返し加わると、<熱応力>が繰り返し加わって<熱疲労>によって接着特性が低下していきます。

<熱応力>に関しては、<第19回>の「11.5 使用中の温度変化で生じる<熱応力>」や<第20回>の「11.7 被着体の変形によって生じる応力」ですでに述べているので、今一度読み返してください。

 

 (4-2) 最も壊れやすいのは接着端部の界面

 温度変化によって最も熱応力が高くなるのは接着端部の界面です。接着界面の結合部に生じた破壊はクラック状で、一旦クラックが生じると、冷熱繰り返しによってクラックが界面に拡大していきます。界面でのクラックを防止するためには、表面処理や表面改質を行って、接着界面での結合を強化して、凝集破壊率を向上させることが重要です。

 接着剤と被着体表面との結合は分子間力によるもので、金属結合やイオン結合、共有結合などに比べると非常に弱い結合です。そのため、接着部に生じる熱応力が小さくても結合部が破壊されることは頻繁にあります。

 

 (4-3) <熱応力>が生じる各種のパターン

 以下の説明では、接着剤の線膨張係数は被着体より大きく、被着体1より被着体2の線膨張係数が大きいとします。

① 接着部が1箇所で被着体の拘束がない場合

  例えば、12-70ABのように、接着部が1箇所で、被着体が拘束されていない(平面上に置かれているだけの)場合は、温度変化に伴なって生じる寸法変化は、赤枠で囲った接着面方向の長さLと幅Wの伸縮と接着剤層の厚さ方向の伸縮だけを考慮すれば良く、接着されていない部分の被着体の伸び縮みは考慮する必要はありません。

12-70 接着体が拘束されていない(平面上に置かれているだけ)の場合は、

赤枠の接着部だけの熱変形を考えれば良い 

 

 12-71に示すように、高温や低温では、接着面方向と接着剤厚さ方向に膨張・収縮します。室温では、接着剤は硬化収縮や、加熱硬化した場合は硬化温度から室温までの冷却過程で生じる膨張係数差によって生じる熱収縮によって収縮した状態になっています。この状態から高温になると、接着剤の線膨張係数は被着体の線膨張係数より大きいため、接着剤が最も大きく膨張し、加熱硬化した場合は硬化時の温度で硬化時に生じた硬化収縮状態に戻ります。ここからさらに温度が上昇すると硬化収縮分も小さくなり、より高温になると図のように接着剤が最も大きく膨張します。図のような状態では、接着剤は被着体によって面方向に圧縮された状態(接着剤は被着体を引張ろうとする状態)となるので、線膨張係数が小さい被着体1の端部界面(青点部)で剥離が生じやすくなります。室温から低温になると、接着剤が最も収縮するため、線膨張係数が小さい被着体1の端部界面(青点部)で剥離が生じやすくなります。このような膨張収縮が繰り返されると、界面での剥離や接着剤内部での破壊などが生じて劣化が進行していきます。

12-71 被着体が拘束されていない平面接着部における温度変化による接着部の形状変化

 

 いずれにせよ、接着部が1箇所で被着体の拘束がない場合は、接着部だけを考慮すれば良く、接着されていない部分の被着体の伸び縮みは考慮する必要はありません。

 

 では、熱疲労に対する耐久性を向上させるにはどうすれば良いのでしょうか。

 12-72は、平面接着部で接着剤層の厚さを変化させた場合の室温と低温での状態の比較です。低温になると、被着体1より被着体2が⊿Lだけ大きく収縮します。室温では青点と赤点間の距離は接着層の厚さですが、低温になると、図のように間隔が拡がり引張られた状態になります。その結果、線膨張係数が小さな被着体1の接着端部の界面(青点部)は接着剤によって引張られた状態となります。青点部に生じる応力は、室温状態の青点と赤点間距離に対して、低温での距離が大きくなるほど( t1L/t< t2L/t)大きくなります。この点から、接着層の厚さを厚くすることで、低温での熱応力を低減できると言うことです。接着剤層の厚さを少しでも厚くするようにしましょう。

図12-72 被着体が拘束されていない平面接着部では、接着剤層の厚さは厚い方が壊れにくい

 

② 額縁状の接着部の場合

  12-73に示すように、電子部品のセラミックパッケージのように、パッケージの外周部に接着剤を塗布して蓋を接着する場合など、接着剤を部品の周囲に額縁状に塗布して接着する場合は多々あります。接着された部品は、温度の上昇や低下に伴って膨張や収縮し、接着部も伸縮します。

額縁状接着の場合は、断面方向では、12-73のように、接着部は2箇所あります。このような場合には、接着剤は、被着体の伸縮によって、高温になると外側に引張られた状態、冷えると内側に押された状態に変形させられます。

接着剤の変形量は、接着剤の塗布幅部分の被着体の伸び縮みだけではなく、2箇所の接着部の間の被着体の長さに影響されます。このため、異種材接着の場合は、2箇所の接着部の間隔が大きいほど、接着剤の上面と下面の位置ずれは大きくなり、接着剤は大きく変形させられます。2箇所の接着部の間隔は、対角部が最も長いので、額縁状の接着部では、対角部が最も壊れやすくなります。

 額縁状の接着部においても、接着層の厚さを厚くすると、接着剤の上面と下面の位置ずれ量が同じでも、平行四辺形の角度は小さくなるため、変形率は小さくなり有利です。

図12-73 額縁状の接着部の温度変化による変形

 

③ 隅肉接着の場合

  これまでも随所で述べましたが、12-74に示すように、精密部品などを高精度に位置合わせした状態で、部品の周囲に高粘度の接着剤を塗布して接着する方法を<隅肉接着>と呼んでいます。部品間には接着剤は浸透していません。

図12-74 隅肉接着の概念図

 

 図12-75に示すように、高粘度接着剤を用いた隅肉接着では、部品間には接着剤は浸透しておらず、非接着部になっています。青丸は、上側部品の非接着端部、赤丸は、下側部品の非接着端部での接着部を示しています。室温では、両部品は接していて隙間はほぼゼロなので、赤丸と青丸間の間隔はほとんどゼロです。高温になると、赤丸部は下側部品の伸びにつれて移動するため、非接着部が接着剤の底面に拡がります。このため、室温で長さがほぼゼロであった赤丸と青丸間の接着剤は、高温では無限大の倍率まで引張られることになります。低温になると、赤丸部は上側部品の下に潜り込む状態となり、やはり、赤丸と青丸間の接着剤は、高温では無限大の倍率まで引張られることになります。破断伸び率が数百%から数千%もある接着剤はないので、高温や低温になると、隅肉接着の角部は非常に壊れやすく、高温低温が繰り返されるとはく離することとなります。 

図12-75 隅肉接着部の温度変化による変形 角部(フィレットの根元)は要注意

 

 では、どうすれば良いのでしょうか。一つの対策は、部品間の端部に隙間を設けることです。12-76に示すように、部品に突起を設けたり、部品間にスペーサーを入れたりして、隅肉接着部の角部に隙間を設けます。こうすると、室温での青丸と赤丸間の長さは隙間の寸法となり、部品が接している場合より大きくなります。高温や低温では、赤丸は図のように移動して、青丸と赤丸間の接着剤は引張られますが、青丸と赤丸間の接着剤が伸ばされる率は、部品が接している場合に比べて大きく低減されます。隙間が大きいほど、高温低温での伸び率は小さくなり、熱疲労は少なくなります。

図12-76 隅肉接着における隙間の効果

 

 ① ② ③ では、被着体の拘束がない場合について述べましたが、次回は、被着体が拘束されている場合などについて説明します。

 

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